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山田昌弘中央大学教授を講師にお招きして第132回FEC国際問題懇談会を開催

国際問題懇談会

2010年02月04日更新

若者の失われた20年―民主党政権は若者の希望を取り戻せるかをテーマに講演

講演する山田昌弘中央大学教授

講演する山田昌弘中央大学教授

第132回FEC国際問題懇談会の開催風景

第132回FEC国際問題懇談会の開催風景

とき

平成22年(2010)2月4日(木)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

山田昌弘中央大学教授を講師にお招きして第132回FEC国際問題懇談会を開催した。

内容

 民間外交推進協会(FEC)は2月4日、山田昌弘中央大学文学部教授を帝国ホテル東京に招き、第132回国際問題懇談会を開催した。開会に際して渡邊五郎森ビル(株)特別顧問・元三井化学(株)会長が、「’家族生活のリスクマネージメント’は胸に重く響く。山田教授は若者の生態研究の第1人者でパラサイトシングルなどの造語を沢山作られた。本日は予期せぬ感動を期待したい」と、講師紹介を兼ねて挨拶。懇談会には、田代 圓東ソー(株)取締役相談役、井川俊高大王製紙(株)特別顧問・元会長、米澤泰治米澤化学(株)取締役社長、奥山 渉電源開発(株)審議役ら、FEC役員・会員、LFEC幹事(女性会員)が多数出席した。山田昌弘中央大学文学部教授は、「若者の失われた20年―民主党政権は若者の希望を取り戻せるか」と題した講演を行った。その後出席者と、若者の保守化現象と結婚感、雇用慣行等を中心に活発な質疑応答が行われた。

講演要旨

 最近の若者は、正社員という「既得権競争」に一生懸命だ。リスクを取らず安定志向が強い。男は正社員、公務員志望。女も同様かその夫人を目指す。反抗する学生も減り、親と仲良く暮らす。80年代、女性の8割がパラサイトシングルだったが、今は男女とも8割。一人暮らしは2割だ。海外個人旅行の中心は中高年男性がターゲットとなり、若者の海外体験が減っている。「英語ができても大企業は採用しない」と、海外旅行・留学は就職活動を阻害すると思い込む。欧州では韓国、中国の若者を多く見かける。大学では就活のみに関心があり、専門的勉強をしない。大学教員も受験科目以外を教えるという、「大学の高校化」が止まらない。中国人留学生は、「アルバイト、就活、コンパに忙しい日本人学生に染まらないよう気をつけている」と言う。

 欧米では男女とも家から出されるので共働きが普通。日本の20代の未婚率は25%、離婚率は
33%。専業主婦の妻と援助なしに家を建て、子供を大学まで進学させられる世帯は10%しかない。日本の30代前半の女性の1/3が未婚で、多くは親と同居し結婚できるまで待つ。本人よりも親の意識が問題。大学進学率は50%だが、未婚の男性の3割、女性の5割が非正規社員。大卒女性すら専業主婦志向が高まっている。老親と同居の高齢子女も増加した。親の年金に依存した生活で、同居息子の高齢者虐待も多い。

 経済・雇用環境は変化したが雇用慣行が変わらない。企業の新卒一括採用からもれ、非正規社員になったら一生不利となる。入社した会社にしがみつかざるをえない。80年代迄は普通に働いて努力が報われた時代で、主婦の喜びは夫の収入増加だった。小泉改革は「努力しなくても報われる人(既得権)」を削っただけで、打破していない。新卒一括採用からもれた、既得権に入れない人を増大させ、「努力しても報われない人」を放置した。大学の独法化で正規職員の非正規化も進んだ。
 
 知的労働と単純労働の格差拡大は世界的流れで、雇用の流動化は必然的。企業は新卒一括採用を廃止し、正規・非正規社員の待遇格差を是正する政策が必要。正社員にならなくとも安心して暮らせ、再挑戦できる環境で、オランダの制度が参考になる。

懇談・質疑応答

田丸 周FEC常任参与:企業に入っても若手社員のヤル気、上昇志向が足りない気がする。

山田教授:上に立つと叩かれ損との気持ちから、入社してもあまり頑張らない。チャレンジ社会を作ることが必要だ。大学教員も指導教授に気にいられないと就職できないので、教授を脅かすような革新的な研究が生まれない。女性の活用と企業業績が相関する調査があり、女性の方がリスクをとれるかもしれない。人口3千人のカッパドキアに70人の日本人女性が渡り、働いている。

奥山 渉電源開発(株)審議役:40代の独身男性が多い。欠点もなく高収入だが、女性への関心が低い。個人情報の壁から未婚女性の紹介もむずかしい。非婚希望の女性も多い。家のしがらみを嫌いパートナー関係で子供を作らない。

山田教授:面倒ゆえ無駄な婚活はしない。欧米はカップル文化で結婚前提の友人がいないと恥。声をかけ合うのは普通だ。日本で恋愛文化は殆ど存在しない。性風俗の敷居が低く、口説くよりプロ女性やネットで満足する。生身の女性に不感症となり草食系と呼ばれる。

豊川八千江LFEC幹事:学生の同棲が多いのは教育上問題ではないか。

山田教授:一人暮らし社会の欧州では生活費節約のための同棲が多い。日本は親との同居が多く、同棲率は1%と低い。親戚付き合いを嫌い非婚希望も多いが、子供ができると結婚する(2割が「できちゃった婚」)。

田代 圓東ソー(株)取締役相談役:政策支援可能なものと社会現象があり、どうすべきか一概に言い切れないのではないか。

山田教授:雇用慣行を経済状況に合わせるべく、新卒一括採用の廃止、公務員の身分格差是正を要望する。新卒一括採用・OJTは、もの作り時代には合致したが今は合っていないと思う。

奥山 渉電源開発(株)審議役:パラサイト傾向は増加するのか、変化させるにはどうすべきか。

山田教授:高齢化で親が死ぬと困窮する中高年が増加し、階級社会化が進む。

前田貴俊FEC企画事業部次長:海外に出なくなった若者対策として、海外ボランティアの義務化を提案したい。国策として実施すれば、英語も真剣に学び変わるのではないか。

山田教授:韓国、台湾には徴兵制がある。アジアの若者は親元で危機感が薄くなる。引きこもりは日韓だけの現象だ。親から離す制度は良いが、最大の反対者は親ではないか。教育制度を変えても変わらない。家庭教育が重要だ。親が人生をあきらめると、子も将来を絶望する。

井川俊高大王製紙(株)特別顧問・元会長:友人多いが結婚の決断ができない。高収入を夫婦で使いたくないので結婚しない、親も面倒みない、となると世帯数も減ってくる。決断させない幼児教育から問題だ。

山田教授:自分で決断し責任を取ることを親も学校も教えない。米国にはデート教育まである。家族を欲しがる若者も多いが、理想の結婚まで待って先延ばしする。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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