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城芳久前インド三菱商事会社ムンバイ支店長を招き第47回FECインド問題研究会を開催=FEC日印文化経済委員会

インド 日印文化経済委員会

2010年06月22日更新

インド・ビジネス最前線をテーマに講演

城芳久前インド三菱商事会社ムンバイ支店長

城芳久前インド三菱商事会社ムンバイ支店長

第47回FECインド問題研究会の開催風景

第47回FECインド問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)6月22日(火)12時〜14時

ところ

ホテルオークラ東京「スターライト」

概要

平成22年6月22日(火)に城芳久前インド三菱商事会社ムンバイ支店長を招き第47回FECインド問題研究会を開催

内容

民間外交推進協会(FEC)日印文化経済委員会(委員長・荒木浩東京電力(株)顧問)は6月22日、前インド三菱商事会社ムンバイ支店長の城芳久氏を招き、第47回インド問題研究会をホテルオークラ東京で開催した。FECは調査団派遣や協力協定締結など、インドと21年に亘り活発な交流を行っている。本年3月にはアイヤール元石油天然ガス大臣らを招き、在日インド大使館の後援により日印原子力協力フォーラムを開催した。

開会に際してFEC日印文化経済委員会委員長の荒木浩東京電力(株)顧問より、「インドのGDPはアジア第3位で12億人の巨大市場として注目される。1月にはASEANとのFTAが発効し、日本ともEPA締結交渉を開始した。日本企業のインド・ビジネスは拡大の好機を迎えよう」と主催者挨拶。城芳久講師は「インド・ビジネス最前線」をテーマに、詳細な配付資料に基づき政治・治安情勢、投資環境、日印関係について述べ、講演後、インフラPJ、消費構造、カースト制など広範な問題について、出席者と一問一答の活発な議論がかわされた。研究会には、山田中正元駐インド大使、内藤明人リンナイ(株)取締役会長、田代圓東ソー(株)取締役相談役、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長、内田勲横河電機(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員多数が出席した。

講演要旨

インドは人口12億人の54%が25歳以下の若い国。一人当たりGDPは約千ドルと無償資金協力ギリギリの貧しい国。面積は日本の9倍、ロシアを除く欧州と略同じ。独立後62年間クーデターはなく、常に選挙で政権交代が行われた。官僚制度は堅固。下院総選挙は有権者7億人で投票は2ヶ月間実施される(「世界最大の民主主義」)。5月に第2次シン内閣が発足、経済界の好感を反映し株価は急騰した。08年11月のムンバイ・テロのターゲットは外国人とユダヤ教徒。テロ集団にはアルカイダが関与している。政府は米英と連携したテロ対策の徹底と警戒態勢の強化に努めている。

09年の実質成長率は7.4%で、産業別寄与度はサービス産業54%、第1次産業20%。人口の60%を占める農業は旱魃の影響から不振。年初来インフレ率が上昇しており、金融政策は引き締め策へ転換された。貿易収支は赤字基調で、ソフトウエア収入や送金流入で赤字を賄う構造。中国が最大の貿易相手国。東アジアとの経済連携協定(EPA)締結にも積極的。韓国とは包括的経済連携協定(CEPA)締結により、IT技術者等サービス専門職の相互開放が合意された。日本企業にとってインドは中国に次ぐ有望投資先(JBIC調査)で、08年度は大型投資(第一三共4千億円、NTTドコモ2.6千億円)も実現しており、対印投資額は対中投資額を上回った。最大の課題はインフラ整備で、政府の5ヵ年計画では40兆円のインフラ需要(内民間12兆円)が見込まれている。インドの輸出依存度は16%と低く、内需依存型経済。人口比48%、5.5億人の中間層が消費を支えている。在留邦人は3千人強と中国の12万人に比べ少ない。最近はチェンナイへの進出も増えている。従業員の離職率は高く、IT企業では「20%は良いほう」と言われている。アジア各国とのコスト比較では通信費が格安だ。

懇談・質疑応答

田丸周FEC常任参与:中国のような労働争議は心配ないか。

城芳久講師:弱者を守る意識が強く、労組の有無に拘わらず、解雇等こじれると従業員が一致団結する。

内藤明人リンナイ(株)取締役会長:スズキの成功の秘訣は何か。中国のインドへの関心は強いか。仏教の普及、位置づけは。

城芳久講師:カースト制が強い中で日本流の経営を根付かせた。中国はインド貿易の関心は高いが、中印共同の投資案件は考えにくい。

山田中正元駐インド大使:ヒンズー教の1派から仏教が生まれた。インドでは殆どヒンズー教に吸収され同じ宗教とみている。下層階級だけが格差意識のない仏教を信仰している。

河村憲治(株)トッパントラベルサービス代表取締役社長:高速道路の整備は何故遅れたのか。

城芳久講師:住民との土地収用の合意の遅れによる。政府は強制収用しない。デリーも郊外を開発し発展した。ムンバイの再開発は難事だ。

天野太道トーマツ東日本ブロック本部長:子供の教育水準に格差があるか。

城芳久講師:かなりある。公立校はヒンズー語教育。日本人も含め富裕層の子弟は私立校で英語教育を受けさせる。留学してもカースト制のインドに戻る例は少なく、多くは海外で就職し仕送りしている。

中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:超低価格のナノカーを買うのはどの階層か。買換え時期は。インフラ整備も財政事情による。税収次第か。食料輸送システムが不備ではないか。

城芳久講師:上中位の中間層。3世代家族が多く、一家に1台が普通。通常乗り潰す。税制改革では連邦・州の税収平準化の動きがある。食糧物流の不備はインド国鉄も指摘したが、輸送網が細分化しすぎており、野菜も腐る。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:15年前、冷蔵庫が普及せずブロイラー産業が育たないと聞いたが。

城芳久講師:商業施設向け冷凍物流は成長しているが、家庭の冷蔵庫は普及していない。カレーが食生活の基本で香辛料は保存が効く。

内田勲横河電機(株)代表取締役会長:広大な国土で在外インド人も多い。国の意識はどの位強いか。

城芳久講師:愛国心は強くないが、ヒンズー教とカースト制の秩序が維持されている。国の枠組みは変化しないだろう。近隣国との宗教対立(ヒンズー対イスラム)問題を抱えており国の一体感はある。

菊地徹鈴与(株)執行役員:インフラ部門へ外資が入りにくい理由は何か。

城芳久講師:制度の変更と運用リスク。ルールも官僚の末端まで浸透しない場合もある。製造業の方が投資しやすい。

山田中正元駐インド大使:国内に自己分裂要因を多く抱えながら一つのインドが存在するのは、上層階級の中華思想的行動ではないか。カースト制は複雑で理解しにくい。長期的には崩れていくのではないか。下層部の政治意識向上が不安定要因になろう。インフラ整備の中で水の問題は重要だ。

城芳久講師:人口が年2千万人増加する中で、水問題の解決はモンスーンに頼るか海水の淡水化だ。今年から日本政府の協力でFS調査を開始した。水源まで調査する必要がある。

荒木浩東京電力(株)顧問:言語、宗教等理解しにくいが、日本人には何が最大の障害か。

城芳久講師:緊張する外交関係が落ち着いてくれば、究極の問題はカースト制となろう。

打越俊一(株)大和総研専務取締役:「2百年間休んでいただけ」のインド人が、一生懸命働くという変化は感じられるか。インフラ整備にPPPはどの位活用するのか。

城芳久講師:国内外で活躍しているインド人は、高い国際的価値観と活力を持つ。タタ社は人を重視しグループ内及び国際的に人材を活用している。PPPも各種形態があるが今後の重要課題だ。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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