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王文亮金城学院大学現代文化学部教授を講師に招き第68回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会

中国 日中文化経済委員会

2010年06月02日更新

格差大国・中国-脆い中国社会の現状と行方をテーマに講演

王文亮金城学院大学現代文化学部教授

王文亮金城学院大学現代文化学部教授

第68回FEC中国問題研究会の開催風景

第68回FEC中国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)6月2日(水)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年6月2日(水)に王文亮金城学院大学現代文化学部教授を講師に招き第68回FEC中国問題研究会を開催

内容

民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長・生田正治(株)商船三井最高顧問)は6月2日、金城学院大学現代文化学部教授の王文亮氏を招き、「格差大国・中国-脆い中国社会の現状と行方」をテーマに第68回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。中国での急速な賃金上昇に対し、現地に進出する日本の製造業も対応に迫られている。労働契約法は厳しい条件で働く労働者を保護する内容で、社会調和を掲げる胡錦涛政権肝いりの政策で、格差拡大への不満の矛先を中国政府からそらす狙いが隠れている。研究会には、田中宏(株)クレハ取締役会長、大戸武元(株)ニチレイ相談役、尾崎護矢崎総業(株)顧問、今田潔信越化学工業(株)顧問、米澤泰治米澤化学(株)取締役社長、渡部賢一野村證券(株)執行役社長兼CEOらFEC役員、法人会員多数が出席した。

開会に際してFEC日中文化経済委員長の生田正治(株)商船三井最高顧問は、前日に視察した上海万博の感想を披露。「広州・上海間の新幹線から車窓の風景を楽しみ、中国の地方の発展ぶりを感じた。格差問題が大きく取り上げられているが、実態はどうか伺いたい」と主催者挨拶があった。王講師は詳細な資料に基づき、(1)問題の根源-都市と農村の二重構造、(2)格差と二重構造の社会保障体系、(3)格差社会から調和社会へ、を中心に講演を行った。講演後出席者と一問一答の昼食懇談会が和やかに行われた。出席者からは、中国江西省の農村部生まれの王講師の発言は、実体験を踏まえた内容で格差の元となっている二重戸籍制度の実態が理解でき、機微に触れる講演会と好評を博した。

講演要旨

私の専門は中国農村部の社会問題と社会保障問題。農村部取材に基づいた格差問題について説明したい。格差問題は50年前から今日まで続いている問題。中国が世界同時金融危機後も高い経済成長を維持出来ているのは何故か。GDPの4割以上は外国企業の生む付加価値で輸出主導の成長パターンだ。中国の能力と外国企業の能力を分けて考える必要があり、GDPから4割を引いたのが実力だ。格差とは富の分配方法に開きがあること。格差が急速に拡大しており、見通し難が大きな問題。都市と農村の二重戸籍制度が解決されない限り、中国の格差問題は解決しない。広州ホンダのスト問題は序の口。低賃金低学歴労働者を大量に雇用し、輸出品を大量生産する中国の産業構造に問題がある。出稼ぎ労働者は今や2億人を越えた。改革開放政策から30年たつが、中国特有の問題として、急速な都市化の進行があるが、農村人口は過去30年間殆ど減っていない。今や農業比率は1割。中国は農業大国ではなく農民大国である。この産業構造を改革しないと格差は拡大する一方である。

中国の社会保険には、年金、医療保険、失業保険、労災保険、生育保険の5種類ある。都市部では1950年代から全てが適用されるが、農村部では医療保険のみ。年金保険は部分的に確立されているが、その他の保険はない。都市と農村の格差を助長する社会保障制度となっている。

胡錦涛政権は、「格差社会から調和社会へ」に取り組んでいる。社会主義新農村の建設に向けて、「生産発展:生産を発展させること」、「生活寛裕:生活をゆとりあり、豊かにすること」、「郷風文明:風土を文明的にすること(文化の発展、マナーの向上など)」、「村容整潔:町並みを清潔に保つこと」、「管理民主:民主的な管理をすること」を要点として、農村生活水準の引き上げ、都市と農村の格差解消に努めている。更に、草の根民主主義として住民自治組織に限定して選挙も行われているが、公正な選挙の実現など課題も多い。

懇談・質疑応答

生田正治(株)商船三井最高顧問:新型農村合作医療とあったが、この合作というのはどういう制度か。また、選挙は農村部だけで都市部は行われていないのか。

王文亮講師:住民の相互扶助の組合。これは毛沢東時代に政府は農民の医療保障を全く考えていなかったので、住民が少しずつお金を出し合って作った組合制度で、公費は一切入っていない。また、選挙は都市部では行われていない。農村部のみで実施されている。

田中宏(株)クレハ取締役会長:経済は日中一体だが、価値観はなかなか一体になっていない。この点について良い考えは。

王文亮講師:価値観の共有はなかなか難しい。今後は国民の行動パターンを研究し相互理解を図る必要がある。政治レベルの共有はなかなかむずかしい。民間レベルでも、広州ホンダの労働争議問題が伝えるように、経営者が中国の労働者を十分に理解し、労働者行動を意識した経営が必要になる。

尾崎護矢崎総業(株)顧問:出稼ぎ労働者が日本の人口なみに存在する。20代から40代が中心とのことだが、都市部に定着できるのか。または、故郷に戻るのか。

王文亮講師:80年代以降生まれの農民工問題を早急に解決しないといけない。10代から20代で生まれは都市だが戸籍は農民という若者が数千万人いて、大きな社会問題となっている。

生田正治(株)商船三井最高顧問:上海の裕福層は銀行に預金せず自宅に現金を貯めていると聞いたが。

王文亮講師:現金を家に保管するのは中国の伝統的なことで、お金持ちほど預金をせず株式、金、不動産に投資する。

田中宏(株)クレハ取締役会長:戸籍制度は歴史的にはどのようにできたのか。

王文亮講師:1958年毛沢東の時代に戸籍制度が作られた。一つは当時毎年何千万人も都市に移動して大変な状況になった。もう一つは農村労働者が都市移動した場合、農村の社会主義がなりたたなくなるため。

大戸武元(株)ニチレイ相談役:中国の税金の捕捉率はどのくらいか。

王文亮講師:中国の税制は基本的に日本と違う。中国に納税は国民の義務という考え方は無い。中国は80年代までは国民全員無税。今は、個人所得税も有るが、考え方としてまず控除。月2千元未満の場合は無税。2千元超は5%ごとの累進課税がかかる。もう一つは法人税。

今田潔信越化学工業(株)顧問:国家行政の組織図で中央政府と地方政府の第1級から4級の地方政府の人事権はだれが持っているのか。地方政府が土地を売却した場合、地方政府の収入となるのか。

王文亮講師:地方都市の場合、土地によっては上級政府の許可を得る必要があるが、上納する必要は無い。各地方政府が土地を持っており、地方財政を豊かにしている。人事権については、選挙は無く任命制。第1級の地方政府の任命権は中央政府にある。第2級の地方政府の任命権は第1級の地方政府にあり、上級政府が任命する。但し、例外は有る。

松田欣和ソーダニッカ(株)常務取締役:外資系企業への税金はどのようになっているか。

王文亮講師:数年前は税金の優遇を設けていた。今は法律上の外資優遇は無くなった。しかし、現実的には外資系企業に対して免税、税還付、社会保険料の負担軽減や土地の使用料免除等が行われている。

渡部賢一野村證券(株)執行役社長兼CEO:大別すると戸籍制度維持を希望する人達と改革希望者がいると思うが、党、国民、軍で意見の違いはあるか。改革する場合いつ頃になるか。

王文亮講師:一気に変えたら大変なことになるとの慎重論がある。現在中央政府は各省の地方政府に任せる方針。そのため戸籍制度の改革も地域によってばらばら。あまりに長く、格差も拡大した段階で戸籍制度の改革を行うのは非常に苦渋の選択となる。しかし、やらないと大変なことになる。

北道佳久帝人(株)マーケティング戦略室室長:一人っ子政策は今後どのようになるのか。

王文亮講師:今のところ中国の人口は毎年800万人増えている。しばらくは人口をコントロールすることは必要。将来的には今の政策を微修正しよう。農村部はすでに緩やかになり一人っ子は少ない。今は二人目以降は社会扶養費を払えばよく、説得はするけど強制はしない。

今田潔信越化学工業(株)顧問:このところ外資系企業に賃上げ要求が起こって労働争議が急増している。最近は2、3割アップの賃上げ要求が出ており、進出外資系企業には大きな痛手となっている。行政はどのように考えているのか。

王文亮講師:今は序の口。これからは労働争議の時代となる。中国の産業構造に問題があり外資系企業だけでなく、中国政府も困っている。政府は今後誰の味方をすべきか大きな課題となっており、行政の対応が遅れている。また、農民工が帰郷しても都市と同じ位の収入が得られるようになっており、労働者は退職覚悟で強気だ。

(前田貴俊FEC企画事業部次長・記)

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