English

孫崎享元外務省国際情報局長を講師に招き第25回FEC米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会

アメリカ合衆国 日米文化経済委員会

2010年06月08日更新

日米同盟と日本の安全保障をテーマに講演

講演する孫崎享元外務省国際情報局長

講演する孫崎享元外務省国際情報局長

第25回FEC米国問題研究会の開催風景

第25回FEC米国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)6月8日(火)12時〜14時

ところ

ホテルオークラ東京「スターライト」

概要

平成22年6月8日(火)に孫崎享元外務省国際情報局長を講師に招き第25回FEC米国問題研究会を開催

内容

民間外交推進協会(FEC)日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は6月8日、元外務省国際情報局長の孫崎享氏を招き、第25回米国問題研究会をホテルオークラ東京で開催した。普天間基地移設問題を巡る鳩山前政権の迷走は、米国の不信感増大と日米同盟関係の動揺を招いた。菅直人新内閣発足当日の研究会には、田代圓東ソー(株)取締役相談役、森元峯夫(株)エスイー代表取締役社長、武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長、水谷四郎中部電力(株)顧問、大野宗彦森トラスト(株)取締役副社長らFEC役員、法人会員多数が出席した。

開会に際してFEC副会長の生田正治(株)商船三井最高顧問より、「質的転換と中国の台頭という安全保障の新しい動きに、日本はどう対応するか。日米同盟を含め鳩山政権にはビジョンがなかったが菅政権には期待したい」と主催者挨拶。孫崎講師は「日米同盟と日本の安全保障」をテーマに、配付レジュメに基づき基地問題、「核の傘」、米国の対日戦略について述べ、講演後、普天間問題、日本の防衛政策、中国の見方など広範な問題について、出席者と一問一答の活発な議論がかわされた。

講演要旨

1月に普天間基地問題の背景説明を鳩山首相に行い、「米政府は民意を尊重する。県外移設の県民世論を無視すれば反基地活動が活発化し、日米安保体制にマイナス。県外代替施設を検討すべし」と提言した。民意を反映した国是を追求するのは当然だ。沖縄県知事選(11月予定)を前に県当局は関連工事の認可をできないので、辺野古移転は困難となろう。殆どが賛成している成田空港すらすべての工事は完成していない。沖縄県民は変わり、辺野古移転が無理になった。首相の意向を支えなかった外務省、防衛省、官邸が問題で、メディアも煽った。日本の米軍基地負担費用はドイツの3倍、英国の20倍と圧倒的に大きい。普天間基地の比重は小さく、日米関係が崩れるような関係ではない。日本の外交政策の基本文書には、「米軍基地は縮小・整理し、自衛隊が引き継ぐ」(69年の外交政策大綱)と記されている。

新たな安全保障問題として米国戦略の変化、中国の台頭、北朝鮮の脅威が重要だ。中国の経済大国化に伴い軍事力も増大したが、日本人は福沢諭吉以来の「脱亜入欧」意識が強く、中国の脅威を実感できない。核保有国、米中の「相互確証破壊戦略」の下では、米国の「核の傘」は対中国には働かない。中国が日本を核で脅すと誰も助けられない。また、領土問題は日本に防衛責任がある。日米安保条約は、「日本国施政下への武力攻撃に自国の憲法に従い行動する」と定めている。北方領土はロシアの管轄下で日米安保の対象外。米国地名委員会は竹島を韓国領と認めており同様に対象外。尖閣列島には中立的立場であり、中国が占拠しても米軍は出動しない。冷戦後、米国は世界戦略の重点を東西から南北関係に変え、国連憲章から離れ単独行動を志向している。日本の軍事貢献を期待し、日米の経済格差拡大抑止手段として、規制緩和と構造改革を迫った。米軍基地と日米同盟を世界的な安全保障戦略に利用するのが米国の明確な意思だ。こうした日米同盟の変容、深化を受け入れるのか、再考すべきだ。中国、北朝鮮が対日軍事行動をしないように外交努力し、尖閣など島の防衛力強化が重要だ。中国に対しては、貿易拡大による日中経済の一体化が、軍事抑止力となろう。

懇談・質疑応答

森元峯夫(株)エスイー代表取締役社長:世界を混乱させている米国と日本との関係を率直に解説された。「米国の属国」と言われない安全保障政策の構築が課題。対中国では経済、文化のソフトパワーを強め、中国を魅了することが重要と思う。

武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長:普天間問題の紛糾で基地問題等の論点が鮮明になったが、沖縄駐留米海兵隊のグアム移転の予算が計上されているのに鳩山首相は何故現行案を変えたのか理解できない。

孫崎享講師:ゲーツ国防長官は戦費以外の国防費の一律3%削減を指示し、グアム移転予算も削られた。8割近い民意を選挙公約とするのは当然で、外交摩擦を回避するのがプロの外交だ。

生田正治(株)商船三井最高顧問:沖縄県民の世論が国民全体の声になっていたのかを考えるべきだった。

孫崎享講師:60年の反基地闘争から本土の米軍基地を1/4に縮小し、沖縄に移転した経緯がある。

森元峯夫(株)エスイー代表取締役社長:「自分の国は自分で守る」議論の出発点になればよいと思う。

孫崎享講師:NHKでも防衛・安保問題の本質が議論され始めた。尤も防衛大綱では、「敵とどう戦うか」という戦術論ではなく、防衛態勢中心の記述だ。

田丸周FEC常任参与:日本は島の防衛ができていない。明確な国防意思がないので外交配慮が優先され、島への不法侵入者を海保庁が拿捕しない。英米が実施したイラク戦争の検証を日本もすべきだ。

孫崎享講師:島の防衛は日米安保の対象外という現実を国民は知らない。民主党議員からイラク戦争の検証提案があったが、「変わり者」としてとりあげられなかった。

井田昌之青山学院大学教授:経済の一体化が軍事抑止力となるのであれば、北朝鮮にも経済支援が必要か。

孫崎享講師:北朝鮮の核攻撃を抑止するには、政権崩壊させないメッセージを伝え、自壊を待つ政策が望ましい。日本の政策は「北を潰す」方向で逆行している。拉致問題は日中間の最大テーマにはなりにくい。公的支援は利権が絡む。民間貿易の促進を補完する貿易保険の拡充等がよい。

張仁久台北駐日文化経済代表処業務組部長:96年の台湾海峡緊張時、米空母の役割は大きかった。台湾の安全保障に米国は重要で、米国から武器を購入した。日米同盟は東アジアの安定に重要であり、普天間問題は何故迷走したのか。

孫崎享講師:普天間問題には、日米同盟維持と沖縄民意尊重の2本の座標軸がある。鳩山首相は後者を強く意識したが、米側の説得により前者の比重が高まり決着した。

生田正治(株)商船三井最高顧問:迷走したのは国の安全保障に対する見識が欠けていたからだ。中国の経済力拡大に伴い通常兵力、空母も増えよう。台湾海峡はいずれ中国の内海になり中国の脅威は消える。究極的に台湾海峡のリスクがなくなれば米軍基地は縮小できる。

孫崎享講師:鳩山首相は辞任時に「自分の国は自分で守る」と言ったが、1月に発言していれば理解を得られたかもしれない。「自分の国を自分で守る」ことは安保条約と矛盾するが。

大野宗彦森トラスト(株)取締役副社長:中国は格差問題等の矛盾を抱えながらも、米国と並ぶほど成長していくのか。

孫崎享講師:中国の国民所得が米国の1/4、ブルガリアの水準まで上昇すれば人口が4倍故、矛盾を抱えても経済規模は並ぶ。

前田貴俊FEC企画事業部次長:中国の軍は共産党に属しており、軍事行動は党の指導者の資質に影響されよう。

孫崎享講師:党の指導者候補はかつてのロシア人より対外融和の重要性を認識している。ただ、日中共同開発案件では日本は商業ベース、中国は国策で考えるため、採算性の見方に違いが出る場合もあろう。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

< 一覧へ戻る