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武者陵司(株)武者リサーチ代表を講師に招き第24回FEC米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会

アメリカ合衆国 日米文化経済委員会

2010年04月27日更新

2010年の経済・市場展望〜金融危機の収束と豊かな投資チャンス〜をテーマに講演

講演する武者陵司(株)武者リサーチ代表

講演する武者陵司(株)武者リサーチ代表

第24回FEC米国問題研究会の開催風景

第24回FEC米国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)4月27日(木)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年4月27日(火)に武者陵司(株)武者リサーチ代表を講師に招き第24回FEC米国問題研究会を開催

内容

民間外交推進協会(FEC)・日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は4月27日、武者陵司(株)武者リサーチ代表・元ドイツ証券(株)副会長を招き、「2010年の経済・市場展望〜金融危機の収束と豊かな投資チャンス〜」と題し第24回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、荒木浩FEC副会長・東京電力(株)顧問、渡邊五郎FEC日米文化経済委員会副委員長・森ビル(株)特別顧問、神山茂(株)ジャステック取締役会長、米澤泰治米澤化学(株)取締役社長らFEC役員、法人会員が出席した。開会に際してFEC副会長の荒木浩東京電力(株)顧問・元会長は、「金融危機の発火点となった米国の3月の経済指標は着実に持ち直しているが、空前の財政赤字を抱え、先行きは不透明。本日は、米国と日本の経済動向について、明るい見解をお持ちの武者講師から、金融危機収束の見通しと今後の市場展望についてお話しを承り、率直な意見交換をさせていただきたい」と主催者挨拶。武者講師は、サブプライムローン問題、米国経済動向、日本経済の展望等について、詳細なデータ分析を元に説明。その後昼食を共に参加者と活発な質疑応答が行われた。出席者には武者リサーチコメンタリー最新版が配布された。

講演要旨

昨年の米債券市場では大恐慌以上のリスクプレミアムが織り込まれた。債券価格の動きはジェットコースターのような一年であった。世界の主要金融機関の多くは保有証券の大幅な評価損から債務超過となったが、価格が急騰に転じ収益は劇的に回復した。株も債券も市場のパニックから異常値がついたが実体経済は悪化していない。株式市場は昨年3月を底に回復している。一世を風靡した悲観論は間違っていた。大暴落は米国経済の債務依存体質に起因する。今後の米国経済の回復可能性は、企業動向次第で、雇用、生産、賃金、設備投資動向が鍵を握る。米国企業の在庫調整は半年以上前に終了し雇用調整も完全に終わった。設備投資は著減し資金余剰が増大している。メディアは重要な点を見逃している。景気を推進する消費と設備投資の拡大が今後起こってくる。米国の過剰消費は3、4年前の話で、今は過少消費だ。雇用回復、賃金上昇、貯蓄率低下がみられ消費回復の必要条件は十分だ。住宅価格も割安になって来た。昨年は海外投資が復活し、米国から資金が流出しドル安が進行した。今は米株高とドル高が同時進行しており、今後は円安が進もう。

20年前、日本の大幅貿易黒字から購買力平価比極端な円高となった。以来日本経済を痛めて来た円高が終わる。欧州域内では競争力の格差が拡大した。ギリシャ危機の真の含意は、ドイツ経済の著しい成長と南欧諸国の成長率低下だ。日本とドイツは単位労働コストを抑制して来た。少なくとも金融危機に発する悲観論と先進国の繁栄の終わりという見方は現実を説明出来なくなっている。

懇談・質疑応答

荒木浩東京電力(株)顧問:米国を劇的に回復させる産業が米国に残っているのか?

武者講師:80年代米国空洞化の主因は日本とされ日本叩きがあった。米国企業が海外展開を進める中で、米国内では情報、金融が発展し繁栄した。日本も空洞化したが新しい産業が育てられず20年が過ぎた。新興国にシフトする雇用の流れは避けられない。米国は新たな産業を興し、新興国と共存共栄するシナリオを持っている。

荒木浩東京電力(株)顧問:米国に残っている産業は防衛、医薬、IT等で、それ以外は海外に出ていったと思う。

武者講師:労働集約型産業は海外に出て行くが生活関連産業は国内に残る。昨年ウォーレン・バァフェット氏は、鉄道会社を買収した。米国の消費増大から鉄道会社も潤うとの見方だ。さらに新しい先端産業も生まれている。

荒木浩東京電力(株)顧問:米国では、本来住宅を買えない人達にまで住宅を買えるようにして消費を喚起した。住宅需要は急回復するのか。

武者講師:米国の住宅ローンの借手は返済不能となったら担保の住宅を手放せばローンが帳消しになる。それを知った債権者が一気に住宅ローン証券を売り大暴落したのがサブプライムローン危機の実体だ。サブプライム住宅の4割は不良債権化したが、6割は健全だ。今回のサブプライム危機拡大には保険の役割もあった。87年のブラック・マンデー大暴落の原因も保険であった。今回はサブプライムという悪質な金融商品が良質な金融商品全てを汚染してしまった。

米澤泰治米澤化学(株)取締役社長:今回のサブプライム問題は、格付会社の役割も大きかったのではないか。格付会社の現状、責任はどうなっているか。

武者講師:金融商品が複雑化し、高度な裏情報も蔓延している。格付会社だけの問題ではなく、金融制度が問題だ。

前田貴俊FEC企画事業部次長:日本経済の現状と今後についてどのように見ておられるか。

武者講師:日本のデフレは近く終わると思う。極端な円高が日本だけに起こった結果、この20年間に世界各国の名目GDPは何倍にも成長したが、日本だけがマイナス成長だ。デフレの原因は、(1)日銀の金利政策、(2)巨額な需給ギャップ、(3)安価な輸入品の増加と技術進歩による物価の下落、(4)超円高、が指摘される。70年代は実力に比べ円安(1ドル360円)で輸出競争力を高め、アメリカを追い越した。80年代終わりに円高になり競争力は低下した。円高は覇権国米国の意思の反映だ。当時の日本のように中国を抑えるには、日本の経済繁栄が必要と米国は考えている。

杉山浩之(株)エスイー成長戦略センター長:プラザ合意の中国版は起こるのか

武者講師:間違いなく起こる。今の中国は日本の70年代と同じだ。中国の強大化放置は世界の民主主義秩序を危機に陥らせる。米国は、中国の資源買い占めや国連での影響力行使を阻止しよう。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:米国の失業率の危機は8%といわれているが、今は9%だ。GM、サブプライムローン、住宅着工等の問題が多くあるが、米国の劇的な回復要因は何か。

武者講師:失業率の上昇は、企業の生産性向上を背景とする雇用削減と資金余剰に起因する。今回の景気後退の最大の理由はグローバリゼーション。世界規模の劇的な産業革命により、農村から都市部への労働者移動と生産性の飛躍的な上昇が新興国で同時に起こっている。こうした背景の中で、不良債権処理が進み急激な景気回復となった。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:日本の法人税率引き下げは可能か。法人税改正の具体的計画はあるか。

武者講師:民主党政権がグローバリゼーションの見方を変えないと何も始まらないが、鳩山政権は方向性を変えざるを得ないだろう。

(前田貴俊FEC企画事業部次長・記)

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