理事長対談シリーズ①松澤建FEC理事長×㈱千雅田中千代美会長

誰もが安心して暮らせる共生の場を

高齢者向けサービスを始めたきっかけ
 松澤建理事長 FEC Newsの新企画として、ユニークな活動を行っている会員を紹介する「理事長対談」シリーズを掲載することになりました。その第1弾として、首都圏および九州で高齢者向けサービスを幅広く展開している株式会社千雅の田中千代美様をお迎えしました。本日はご多忙の中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。

田中会長(右)と松澤理事長



 千雅グループは九州で事業開始、1994年に医療法人九州千雅にて公設民営のクリニックを開設以来、今年で31年目、現在、クリニックは6カ所、高齢者施設等は30カ所以上を運営されています。東京、神奈川、埼玉等の関東圏域においては、有料老人ホームの運営、サービス付き高齢者向け住宅の運営、介護福祉関連事業所等、介護保険法や障害者総合支援法等に基づく介護福祉事業を展開し、従業員数は約1000人を超え、医療・福祉分野においては中堅企業グループの一つとなっています。
 まずは、高齢者向けサービスを始められたきっかけについてお聞かせください。

 田中千代美会長 老人ホームを始めたきっかけは、大分で娘が通っていた学校のPTAに参加していたお母様方の声でした。彼女たちは子供を塾に通わせたいという思いで働いていましたが、同時に舅・姑の介護が必要な世代でもありました。当時は老人ホームの利用料が高額で、子供のために稼いだ給料がほとんど介護費に消えてしまうという現実に、皆さんが苦しんでいらっしゃいました。

 ちょうどその頃、歌人・若山牧水が逗留したことのあるホテルが解体されることになり、彼女たちの声を受けてそのホテルを買い取り、「牧水苑」として高齢者に入居していただき、デイサービスの提供を始めました。

 入居者やそのご家族からは非常に好評をいただきましたが、地元メディアからは「老人を古いホテルに押し込めて食い物にしている」と批判され、悪者扱いされてしまいました。それを受けて、厚生労働省の官僚と日本経済新聞の記者が視察に訪れることになりました。しかし、実際に視察が始まると評価は一転し、称賛をいただきました。当時の法律ではこのようなサービス形態は想定されておらず、視察に来た官僚の方は法整備を約束して帰られました。のちに老人福祉法で有料老人ホームの類型が確立し、住宅型有料老人ホームが法的に認められることになりました。

 松澤 御社の取り組みに法律が後から追いついたということですね。

 田中 法律の整備がない状況で、理想に基づいて行動しておりました。特に嬉しかったのは、入居されていた高齢者の方々が牧水苑の閉鎖に反対してくださったことです。「5~6万円という低料金で、これだけのサービスを受けられる場所は他にない」と、視察に来られた厚労省の官僚や日経記者の方に直接訴えてくださいました。それを受けて日本経済新聞では「施設の良し悪しは入居者が判断すべき」と援護射撃をしていただきました。

ユニバーサルハウス「マリアの丘」設立
 松澤 創業当初は多くのご苦労があったと察します。その後、九州で事業を拡大し、首都圏にも進出されたとのことですが、ローマ法王庁から横浜の土地を取得されたと伺っております。

 田中 ローマ・カトリック教会からの依頼を受け、横浜市緑区の高台にあるアトンメントのフランシスコ女子修道会の施設と土地を引き受けることになりました。
 高齢者福祉が国から民間へと移行したように、ハンディキャップを持つ人々への支援もまた、民間が担うべきだと考えておりました。障がい者福祉の原点はキリスト教の博愛精神にあると認識しております。カトリック教会から土地を受け継いだことは、私にとって天の啓示だと受け止めております。

 こうした想いのもと、年齢・性別・障がいの有無に関わらず、誰もが安心して暮らせる共生の場として、ユニバーサルハウス「マリアの丘」を設立いたしました。背景には、知的障がいを持つお子様の親御様からの切実な声がありました。「自分たちが亡くなった後も、安心して子を託せる場所がほしい」という願いを、ずっと伺っておりました。

千雅・マリアの丘


 松澤 ローマ・カトリック教会から土地を引き受けるというのは、スケールの大きなお話ですね。ユニバーサルハウスの理念も素晴らしいですが、その実現には相当なご苦労があったのではないですか。

 田中 おっしゃる通りです。運営にあたっては、大きく2つの課題がございました。1つは制度上の問題、もう1つは高齢者側の偏見でした。

 制度上の課題としては、自治体ごとのローカルルールが複雑であり、支援を受けるのは簡単ではありません。支援がなければ施設として障がい者を一生預かることは現実的に困難でした。そのため、まずは老人ホームとしてスタートいたしました。その後、小泉純一郎元首相のご尽力により制度上の問題が解消され、知的障がい者の受け入れが可能となりました。

 もう1つの課題は、すでに入居されていた高齢者の方々の中に、障がい者に対して偏見を持たれる方がいらっしゃったことです。差別意識というよりは、「人生の終の棲家として選んだ場所に、行動や反応が読めない方が入ってくることで、穏やかな生活が脅かされるのではないか」といった懸念でした。特に男性の入居者にその傾向が強かったです。

 しかし、実際に入居が始まると、女性の高齢者は「可愛い子どもができた」と喜び、率先して知的障がい者と接してくださるようになりました。そうした姿を見て、偏見は杞憂であったと確信いたしました。
 なお、この「マリアの丘」の理念に共感されたオノ・ヨーコ氏より、彼女の平和を愛し、人々を愛する願いを込められたアート作品“Play it by Ttrust”を提供していただきました。

オノ・ヨーコのアート作品

どの時代でも、新しい分野を切り開く人は、多くの困難な道を歩まざるを得ないものです。
 ユニバーサルハウス「マリアの丘」も、民間によるご高齢者や障がい者のための終身ケア付き住宅として開設されると聞いています。
 これから「マリアの丘」が歩む道は決して平坦な道ではありません。
 私は、道なき道を歩む同志として、誰もが等しくすばらしいときをすごせるように願いを込めて、制作したこの作品を、ユニバーサルハウス「マリアの丘」に贈ります。
 “Play it by Ttr ust”「信頼して駒を進めよ」
 白一色のチェス盤に向かい合って白く塗られた駒を動かす。しばらくすると、どちらかが相手のコマで、どちらが味方のコマか区別がつかなくなる。その先は、「信頼に基づいて」敵味方の区別や差別の無い平和な世界への願いが込められています。
 オノ・ヨーコ

 

大分・中津城の取得

松澤 現在、千雅グループは従業員数が1,000人を超える中堅医療・福祉グループとして、さまざまなユニークな取り組みを展開されていると伺っております。中でも、大分県の中津城を所有されているとのことですが、その意図と今後の展望についてお聞かせいただけますか。

田中 千雅グループ設立以来、「世界に誇るべき日本の伝統・歴史・文化を尊重し、多くの満ち足りた人生を生み出し、新たな歴史と文化を創造していく」という理念を掲げております。

この理念のもと、医療・介護に加えて「文化福祉」を主要事業の一つと位置付けております。その一環として、平成22年に黒田如水が築城し、徳川御連枝である奥平家の居城でもあった中津城を取得いたしました。修復・整備を施したうえで、伝統的な武家文化の象徴である城郭を広く国内外に伝える活動を展開しております。

大分県にある中津城

松澤 最初にお話を伺ったときは、医療・介護を手がける企業がなぜ城を購入されたのか不思議に思いましたが、理念をお聞きして納得いたしました。

田中 ありがとうございます。今年は、イギリスのエリザベス女王から「緑の魔術師」と称された世界的庭園デザイナー・石原和幸氏のプロデュースにより、中津城内に庭園を造営いたしました。武家文化とガーデニングを融合させた新たな城郭文化を世界に発信していく所存です。

「漫画」 世界に誇るべき現代日本の象徴

大阪・関西万博における「万博漫画展」の成功

松澤 去る5月9日に「万博漫画展」のオープニングセレモニーが開催されました。パケ駐日EU大使をお迎えし、テープカットを行い、大変盛況でございました。この企画を実現された経緯についてお聞かせいただけますか。

田中 まずは、理事長に「万博漫画展」実行委員長をお引き受けいただき、さらにパケ駐日EU大使をご招待いただいたことに深く感謝申し上げます。

きっかけは、参加予定だった国の撤退により空きが出たパビリオン「コモンズE館」を、経済産業省から「共創と対話をテーマにした展示空間」として活用してほしいと依頼されたことでした。

松澤 田中会長が多くの漫画の版権を所有されていたことが、開催を可能にしたと伺っております。どのような経緯で版権を取得されたのでしょうか。

田中 もともと、娘が漫画家を志していたこともあり、漫画の版権を取得するようになりました。漫画は、世界中の人々が日本を象徴する文化として挙げる存在であると認識しております。

松澤 こちらも非常にスケールの大きなお話ですね。今回の漫画展について、もう少し詳しくお聞かせください。

田中 関係各所のご尽力により、「EXPO2025 大阪・関西万博」において、世界各国が集い文化交流を進めるなか、「漫画」をテーマにしたブースを出展することができました。連日多くの来場者が列をなし、漫画が現代日本文化の象徴として世界に誇るべきものであると実感しております。

特に好評を得た理由は、テーマに「侍と姫」を据えた点にあると考えております。『武士道』と『姫』は、日本文化の美意識と精神性を象徴するものであり、世界から尊敬されております。

著名な漫画家の皆様が、その感性と画力を駆使して日本の歴史と伝統を表現してくださいました。漫画という表現媒体を通じて、日本古来の文化と現代芸術が融合し、訪日外国人はもちろん、日本人にとっても深い感動を呼んでいると感じております。

松澤 私は漫画に詳しくありませんが、展示作品を拝見して日本文化の本質がしっかりと伝わってきました。これだけ多くの作品を集められた背景には、相当なご苦労があったのではないでしょうか。

田中 漫画家の里中満智子先生と知己を得たことが大きかったです。先生は日本漫画家協会の理事長でもあり、当初は協会の力をお借りするつもりでしたが、最近では協会に所属していない作家も多いと聞きました。そのため、まずは先生に出展をお願いし、そこから“友呼び”で多くの漫画家の方々にご参加いただくことができました。

今回の展示を通して、漫画が持つ表現力と創造性を世界に発信し、日本文化への理解と共感がより一層深まることを願っております。また、漫画ブースの設営・運営において、理事長が会長を務められている全国警察官友の会には、警備面で多大なご支援をいただきました。この場を借りて改めて感謝申し上げます。

国際交流の取組と民間外交協会に期待すること

松澤 最後に、民間外交推進協会に入会された理由と、御社グループにおける国際交流の取り組み、さらに当協会へのご期待についてお聞かせください。

田中 民間外交推進協会(FEC)の「民間レベルでの経済・文化・人的交流を通じて相互理解と信頼関係を築き、世界の平和と繁栄に寄与する」という理念に賛同し、会員となりました。

少子高齢化が進む日本において、介護業界における外国人労働力は欠かせない存在です。日本で介護を学び、その知識と技術を母国に持ち帰って広めることも、立派な民間交流であると考えております。

千雅グループには、ミャンマー、ネパール、中国、スリランカなどから介護の道を志す優秀な若者たちが入職しており、日本文化に触れながら日々学んでおります。

彼らが将来、本国で日本の文化や「おもてなし」の精神を活かし、活躍してくれることこそ、真の意味での人的交流であると考えております。FECには、長年の活動で培ったネットワークと情報に大きな魅力を感じております。今回の漫画展でパケ駐日EU大使をお招きできたのも、FECのおかげであると、改めて感謝申し上げます。

松澤 本日は実り多い対談となりました。今後の御社グループのさらなる発展と、当協会でのご活躍を心よりお祈り申し上げます。

田中千代美

幼少の頃、祖母や高齢者との触れ合いの中で芽生えた「将来、おばあちゃんのお部屋のようにお年寄りの皆が楽しく笑顔で過ごすことのできるお家をつくる」との想いを主婦となってから1996年九州で高齢者施設を立ち上げ実現。2006年首都圏に進出し、現在は九州および首都圏に三十数か所の医療・介護施設を運営するに至る。文化福祉事業を担う関連法人を含め千名以上の従業員を擁する千雅グループのオーナー起業家。

日本の漫画文化の奥深さ世界に発信

「万博漫画展」オープニングセレモニー

5月9日、大阪・夢洲で開催中の大阪・関西万博において、「万博漫画展」のオープニングセレモニーがコモンズ・E館で行われ、万博漫画展実行委員会の実行委員長を務める松澤建・民間外交推進協会(FEC)理事長は開幕を記念して挨拶に立ち、「日本の漫画文化の奥深さを世界に発信する機会にしたい」と述べた。

式典には、EUナショナルデー関連行事で多忙を極める中、ジャン=エリック・パケ駐日欧州連合(EU)大使も来場して下さり、松澤理事長とともにテープカットを行い、会場に詰めかけた来場者から拍手が送られた。

「万博漫画展」は、日本が世界に誇る文化である「漫画」を通じて、日本の精神性や美意識を世界へ発信することを目的に企画された。会場には、昭和から令和にかけて活躍する30名以上の漫画家による描き下ろし作品や、作家自身が選んだ名場面の原画などが展示されている。テーマは「武士道」と「姫」。時代を超えて受け継がれてきた日本の価値観を、漫画という表現で鮮やかに描き出している。さらに、会場には著名漫画家たちの直筆サインが集まる「コラボウォール」も設置されており、会期中には追加のサインも予定されている。また、展示スペースでは、徳川家康が着用していたとされる「熊毛植黒糸威具足」や黒田官兵衛の「如水の赤合子」の兜(レプリカ)も紹介されている。来場者は実際に試着することができ、日本の歴史文化にも触れられる内容となっている。

「万博漫画展」は10月13日まで開催された。

展示作品の数々
テープカットを行うジャン=エリック・パケ駐日EU大使(左)と松澤理事長

当対談はFECニュース2025年7月号に掲載されたものです。