「人付き合い」大切に 海外提携を成功

創業400年以上のグローバルヘルスソリューション企業
松澤建理事長 本日は、民間外交推進協会の副会長・常任理事であり、サクラグローバルホールディング株式会社代表取締役会長の松本謙一様にお話を伺います。松本会長とはさまざまな国への訪問団でご一緒しています。まずは貴社の概要について教えてください。
松本謙一会長 サクラグローバルホールディングは、医療現場での感染防止に貢献する洗浄滅菌事業と、がんの確定診断の迅速化・効率化に寄与する病理診断事業を手がける医療機器メーカーであり、グローバルヘルスソリューション企業です。感染制御では医療機関だけでなく、医薬・ワクチン、調整・水処理設備といったライフサイエンス分野でも当社の技術が活用されています。また、病理診断事業では課題解決のカギとなる「病理の全自動化」を推進しております。
現在、サクラグループは、サクラファインテックUSA、サクラファインテックヨーロッパ(オランダ、傘下に14カ国の子会社を有します)、櫻花医療科技(泰州)有限公司(中国)の拠点を通じて、世界150カ国以上にグローバルに展開しています。
松澤 貴社は歴史のある企業と伺っていますが。
松本 当社は1871年、東京・日本橋で創業しました。その源流はさらに400年以上前、泉州堺の薬種商にあり、幕府の開府とともに江戸・日本橋へと移転いたしました。業祖である松本久左衛門から数えて17代目にあたります。1973年に父・善治郎が急逝したことを受けて、36歳で社長に就任しました。私は17代目の当主ではありますが、「血脈よりも継続」を重んじ、必ずしも嫡男が家業を継ぐとは限らないという考えのもと、いわゆる同族経営とは一線を画しています。
欧米進出の先駆けとしての挑戦と戦略
松澤 若くしてトップに就任され50年以上も陣頭指揮をとってこられたことはさぞ大変だったとお察しいたします。貴社の海外展開について教えてください。
松本 63年、当時ロンドンで開催された「国際病院設備および医療機器展示会」に参加し、当社の主力製品を展示し、その足でヨーロッパ、アメリカ、カナダを訪問し大きな成果を上げることができ、海外展開の第一歩となりました。グローバル展開とは単に規模を拡大すればよいというものではありません。同じ500億円の売り上げであっても、市場規模が1000億円か1兆円かによってマーケットシェアは大きく異なります。だからこそ、当社は感染制御と病理診断という2つの領域に特化し、グローバルニッチ戦略を推進しました。
松澤 なるほど。私も60年代から海外ビジネスに携わっていましたが日本の経済力もまだまだで当時の海外展開の難しさも理解しています。貴社の海外展開の転機についてもお聞かせください。
松本 その1つは70年の医療機器分野で世界のトップメーカーであるアメリカン・ステリライザー社(略称アムスコ)との提携です。アムスコ社の高度な技術を吸収し、サクラグループが世界市場に進出するための基礎を築きました。
さらに、翌年には臨床検査試薬および医療機器の輸入販売を行うマイルズ・三共(本社・東京)との販売提携を締結しました。マイルズとの提携は、単なる製品販売にとどまらずマイルズ向けに製品をOEMで提供することにより、サクラの技術水準の高さを世界に広く認知させることができました。
こうした海外企業との提携を成功させるには、やはり人間関係の構築、つまり「人付き合い」が大切であると感じています。
その後、86年にはカリフォルニア州トーランスに現地法人「サクラファインテックUSA」を設立し、98年には同地に1万坪の自社ビルを構えました。単なる販売拠点ではなく、米国市場に根を下ろして長期的な売り上げ拡大を目指すという覚悟の現れでもありました。
松澤 20年以上前になりますが、出張でトーランスを訪れた際、トヨタ、ホンダ、パナソニックと並んで御社の立派なビルを拝見し、感銘を受けたことを覚えております。
松本 ありがとうございます。同様に、ヨーロッパや中国でも事業展開を進めております。

キューバとの交流とODAを通じた再展開
松澤 海外といえば10年前に松本会長とキューバを訪問し、政府関係者と意見を交換しました。貴社のキューバとの関わりについても教えてください。
松本 キューバとの関わりは70年に製品を輸出したことに始まります。かねてより「グローバル化=欧米化」ではなく「地球化」と考え世界中にアンテナを巡らせていましたがハバナで行われた展示会で、故フィデル・カストロ議長に出会って彼の姿勢に感銘を受けたことが大きいと思います。
キューバでは滅菌装置のノックダウン生産に協力しましたがキューバの外貨事情の悪化で92年工場閉鎖に追い込まれました。
しかし、2016年に安倍晋三首相が日本の総理大臣初のキューバ訪問を果たし、「主要病院における医療サービス向上のための医療器材整備計画」(ODA)を進めることになり、これによりサクラの滅菌装置はキューバのみならず、中南米やアフリカの病院にも導入されるようになりました。これも過去の取り組みが成果につながったものだと思っています。さまざまな国を訪問しましたが、キューバは印象深い国の一つです。
松澤 会長と一緒にキューバを訪問した後の展開は私も自分のことのように嬉しく思いました。会長の経営者としての理念をお聞かせください。
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=1978年、キューバ

=2015年、ウズベキスタン
「責任は私、手柄はあなた」 損得考えず
経営者としての信条と「3つの心」「4つの大切さ」
松本 私が会社を経営するうえで常に大切にするのは、「3つの“心”」の重要性です。

1つ目は「利他の心」です。まず業界全体の発展があり、その先に自社の成長があると捉えています。
2つ目は「協業の心」です。近年の技術革新は目覚ましく、自社ですべてをまかなうには時間もコストもかかりすぎてしまいます。特にハイテクやDX分野においては、オープンイノベーションが重要ですし、他社との「協業」は大切です。
3つ目は「ユーモアの心」です。これは言い換えると「心のゆとり」を持つことでもあります。他者を巻き込みながら、何事も楽しく取り組もうというのが、私の生き方です。誰かと議論を交わす際には、最初から相手を否定するのではなく、まずは相手の主張にうなずいた上で、自分の意見を伝えるという“Yes,but.” の話し方を心がけています。そうすることで、気持ちよく意見交換ができ、相互理解が深まり、人とのつながりも広がっていきます。
また、最近、「4つの大切さ」を実感します。
①「マクロ」から「ミクロ」を見て考え、行動を起こすことの大切さ
②「未来」といっても、「近みらい」か「遠みらい」か、を見極めることの大切さ
③「現場」に触れて、感じて、考え、行動することの大切さ
④的確な情報を集め、行動に移すことの大切さ
昨今はオンラインで海外の方々とも容易に会議を行える時代になりましたが、それでもまずは現地に赴き、相手と会うことが大切だと考えています。
松澤 なるほど。多角的な視点を持ち、人と会う、現場を見ることで初めてわかることがあるというのは私も実感します。ところで松本会長は、小泉元首相をはじめ多くの政治家の方々ともお親しいと聞きましたが。
松本 長年の経験を通じて小泉純一郎元首相をはじめとする多くのVIPの方々と知り合う機会に恵まれました。そうした方々からいただく言葉が心に沁み、人脈の大切さを実感します。
「人の上に立つには何が必要か」という問いに対して、次のような言葉をいただきました。
「才能や運は持って生まれる者もいるが、成功体験や失敗体験といった『経験』は、生まれながらにして持っている人はいない。いかに豊かな経験を積んでいるかが重要だ」
この言葉に深く共感いたしました。
業界全体の繁栄のために
松澤 会長は、自社のことだけではなく業界全体のことを考え活動されていることを伺いました、現在の医療機器産業の課題について教えてください。
松本 医療機器産業全体を見渡したとき、3つの課題があると考えています。
1つ目は「製品の安定供給」です。資材不足や人手不足、さまざまな困難があります。
2つ目は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。当社でもDXを積極的に推進しますが、業界全体も、さらなる推進が必要だと考えています。
3つ目は「国際展開」です。こうした課題解決の一助になればと「ヘルスケア」の次世代を担う国際医療プロフェッショナルを育成することを目的として一般財団法人松本記念財団を設立しました。
看護師の方々が海外学会で発表する費用の一部を助成する制度、看護師や薬剤師のための英会話レッスン外国語教育の支援、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」への寄付、さらにはNPO法人ロシナンテスなどへの支援も行っております。
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そのロシナンテスの理事長でもある川原尚行先生は、20年以上にわたりスーダンや、ザンビアなどアフリカで医療支援活動を継続されています。お話を伺うと、その現場経験の重みがひしひしと伝わってまいります。そうした方々と知り合う機会を持つことも重要だと考えています。
松澤 会長は環境問題にも積極的に取り組んでいると伺っております。
松本 はい。当社は、使用済み単回使用医療機器の再製造推進に取り組んでいます。環境負荷の軽減を目的とした社会貢献活動の一環です。また業界レベルで「単回使用医療機器再製造推進協議会(JRSA)」を立ち上げ、松本記念財団が事務局を務めております。
EUでは、医療の安全と資源の有効活用を目的に、「グリーンサージェリー(Green Surgery)」の考えのもと、単回使用医療機器の再製造が推進されており日本でも17年7月に同様の制度が創設されました。今後は限られた医療資源を有効に活用し、環境負荷を低減することで、持続可能な医療の実現に寄与していきます。
松澤 今年は大阪・関西万国博覧会が開催されていますが、業界もこれに関連した催しはありましたか?
松本 医療機器業界の特筆すべきイベントに「Japan Health」がありました。医療・ヘルスケア分野に特化した国際見本市であり、25年6月にインテックス大阪にて初開催されました。これはEXPO 2025 大阪・関西万博の公式関連イベントとして、「健康とウェルビーイングウィーク」と連動して開催されたものでもあります。この見本市には、国内外の医療機器メーカー、スタートアップ、研究機関、行政機関、ヘルスケア関係者が集結しました。
松澤 会長がここまで業界活動に取り組む理由を教えてください。
松本 私が業界活動に取り組む理由は、自らの損得ではなく、業界全体の発展を願う気持ちからです。とはいえ競争相手でもある同業者と連携し、まとめていくことは決して容易ではありません。そのような時でも、「責任は私が取る、手柄はあなたにあげる」という姿勢で臨めば、人は自然と動いてくれるものです。
今年で数え年90歳になります。社会貢献活動を続けるためには、まず健康であることが何よりも大切です。そのため、毎朝15分のストレッチと110回の腕立て伏せを日課とし、朝食は自ら1週間分をまとめて作った健康食を食べています。現在でも月に2回は内外出張をこなしております。
松澤 奉仕の精神というのは大切ですね。私もお国のためにという気持ちで民間外交推進協会の活動をやっています。最後に、民間外交推進協会に期待することについて一言お願いします。
民間外交推進協会への期待
松本 私は、数多くの民間外交推進協会の海外訪問団に参加しました。常に強く感じてきたのは、訪問先の政府高官と会い、具体的な議論を行えるという点が最大の強みと思います。
高いレベルとの交流をきっかけに、訪問国の現場レベルへと活動を落とし込み、国家戦略に基づいた「マクロからミクロまで」の実効性ある活動を展開できている点は、素晴らしいことであると感じています。
今後も、民間外交推進協会がこのようなかたちで各国に訪問団を派遣し、民間外交のさらなる発展に貢献されることを心より期待します。
松澤 本日はお忙しいところありがとうございました。今後の貴社グループのさらなる発展と、当協会でのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
松本謙一 1936年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。同工学部機械工学科研修生終了。61年、サクラ精機株式会社に入社。取締役、社長を経て、90年より会長。現在、サクラグローバルホールディング株式会社の会長・CEO、サクラファインテックジャパン株式会社の名誉会長ほか、グループ各社の取締役を務める。日本医療機器学会をはじめとする業界団体の役員を歴任し、現在、(一社)日本医療機器工業会の理事長、(一社)日本医療機器産業連合会の副会長などを務める。2013年には(一財)松本財団(その後松本記念財団に改称)を設立。東京都知事表彰、厚生大臣表彰、藍綬褒章、旭日中綬章などを受賞。
