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森本敏拓殖大学海外事情研究所所長・大学院教授を講師に招き第19回米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会

アメリカ合衆国 日米文化経済委員会

2010年03月02日更新

日米同盟の現状をテーマに講演

講演する森本敏拓殖大学海外事情研究所所長

講演する森本敏拓殖大学海外事情研究所所長

第19回FEC米国問題研究会の開催風景

第19回FEC米国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)3月2日(火)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

森本敏拓殖大学海外事情研究所所長・大学院教授を講師にお招きして、3月2日に第19回FEC米国問題研究会を開催した。

内容

FEC日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は3月2日、森本敏拓殖大学海外事情研究所所長・大学院教授を招き、第19回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。普天間基地問題を巡り米国オバマ政権の鳩山政権に対する不信感が高まる中での研究会には、田代圓東ソー(株)取締役相談役、岡崎真雄ニッセイ同和損害保険(株)名誉会長、武藤高義カルピス(株)相談役、田中宏(株)クレハ取締役会長、齋藤宏(株)みずほコーポレート銀行取締役会長、尾崎護矢崎総業(株)顧問、内田勲横河電機(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員が多数出席した。

開会に際して渡邊五郎FEC日米文化経済委員会副委員長・森ビル(株)特別顧問は、「森本教授は日米外交に豊富な経験と高い見識を有する、防衛、安全保障問題の第1人者。時宜を得たテーマについて率直な見解を伺い、出席者との活発な議論を期待したい」と主催者挨拶。森本教授は「日米同盟の現状」をテーマに、米国の政治動向、普天間基地問題、日米同盟の課題などについて述べ、講話後、民主党政権、安全保障、核密約など広範な問題について、オフレコも含め出席者と一問一答の活発な議論がかわされた。

講演要旨

日米同盟は日本の民主党政権(DPJ)誕生以降、停滞状況。日米間で重要な政策協議・情報交換のレベルが低下し、深刻な状況。この背景にはDPJの対中脅威観欠如・日米同盟による抑止機能軽視の傾向がある。東アジア諸国は日米関係の現状を注視している。オバマ政権の支持率低下を悲観的にみるべきでない。米国経済の回復の遅れ、高失業率、アフガン作戦の低迷及び大統領の気質が背景だ。米国民の58%がアフガン戦争・増派に反対。ニューズウィーク誌によると、オバマは状況判断型で決断は弱く常識的。大国の優位性保持はむずかしい。支持率は意外に北東部で高く南部で低い。民主党が11月の中間選挙に敗北すれば、ヒラリー国務長官の去就に注目が集まる。中間選挙に敗北し大統領に再選されたのはレーガン、クリントンの2人のみ。ヒラリーの悩みは1年間オバマ外交の成果がなかったこと。左派リベラル(オバマ協調路線)から中道右派(ヒラリー強硬路線)へ振れだしたか。国防戦略はイラク・アフガン作戦の勝利を優先し、米国のテロ対応能力不足もあり、同盟国に支援・協力を期待。

米国は普天間基地移設問題の早期解決を求めている。鳩山政権は5月末までに3党合意により候補地選定を行い、日米協議と沖縄との調整を進めて解決する意向だが、難しい状況。「普天間基地返還」の決断は正しかったのか。検証すると米国が日本に言わせたようだ。「5月末期限」は、民主党が参議院で単独過半数体制を完了させたいという意味か。米軍シュワブ基地沿岸を一部埋め立てて滑走路を造る現行移設案には小沢幹事長が反対。政府は法的に容易なシュワブ陸上案を軸に検討しているが、現行案を主張する米国に反対されれば普天間基地は存続となる。普天間問題の捻れから日米政治交流が止まってしまった。米国には首脳会談の計画はなく、対話不在は経済面にも波及している。韓国は既にウォン安を調整済みであるが日本の円高は放置されている。トヨタ問題でも前原国交相と米運輸長官との会談はない。オバマ大統領に話せる日米関係の責任者はルース駐日米大使だけだ。鳩山政権の外交・安全保障政策のつまずきは予想された。精通したアドバイザーが不在で、社会主義思想の3党連立政権が明確な脅威認識や国家戦略のない政策を続けているからだ。普天間問題の3党協議も実施されていない。日米同盟深化の協議項目でも認識にズレがある。米国は核抑止、情報保全、ミサイル防衛、宇宙等、従来の協力分野での質的強化を意図したが、日本は更に、防災、医療・保健、環境、教育分野を加え横に広げており、同盟の質が脆弱化している。

2月に米国の4年毎の国防計画見直し(QDR)が発表された。米中衝突の可能性がある分野は、海や空、宇宙、サイバー空間など国際法上の国境未確定地。米国は海軍力を最優先するが予算は減少傾向にある。ロシアと3つの国境を画定しロシアの脅威が減った中国は、南シナ海の海洋資源確保と輸送防衛のための海軍力を増強。数年で国産空母を建造する見通しだ。中国船の妨害活動、衛星破壊実験等への対応が重要だ。サイバー空間では米グーグル規制問題が発生した。地域ではアフリカ、中南米市場への資源確保、消費財輸出、企業進出が活発だ。日米が協力して中国にどう向き合うか課題だ。

懇談・質疑応答

齋藤宏(株)みずほコーポレート銀行取締役会長:小沢幹事長は普天間問題を参議院選に有利になるように着地させる考えか。状況次第では5月末の延期もあろう。

森本敏拓殖大学教授:参議院選に勝ち安定基盤作りが小沢幹事長の狙い。次の衆議院選まで政策に口を挟むだろう。年金・税制改革、政治主導の仕組み作り、外交・安保政策などだ。一般法による自衛隊の海外派遣の基準つくりが焦点。集団的自衛権行使について、第9条2項の改正を巡り民主党の改憲派も一枚岩でない。

田中宏(株)クレハ取締役会長:集団的自衛権行使は現憲法内で容認できる説もある。

森本敏拓殖大学教授:憲法改正が無理な時に出る議論だ。国内外で是認されないのではないか。中国は今の日米関係をどう見ているのか、谷野大使の見解を伺いたい。

谷野作太郎元駐中国大使:COP15での非協調的態度など、最近の中国は国際会議における反乱者。中国の南下は軍事覇権だ。東南アジアから抗議の声が出てもおかしくない。開放性、包括性、透明性という東アジア共同体の理念に反覇権を入れてはどうか。嘗てキッシンジャーは米中上海コミュニケに、アジア・太平洋地域の反覇権を重要原則と記した。米国への重要なメッセージとなろう。

森本敏拓殖大学教授:東アジア共同体に米国は全く関心ない。岡田外相も「米国は入れない」と言った。

田丸周FEC常任参与:竹島は日本の領土で住所もあるが、「竹島は日本の施政下になく武力占拠されても、日米安保条約に基づく米国の竹島防衛義務はない」との政府見解には驚いた。

森本敏拓殖大学教授:韓国に対する過度の配慮だ。施政とは実効支配のことで、「施政下にない」と政府が言った以上米国の防衛義務はなくなる。米国は領土紛争に介入しない立場で、尖閣諸島も竹島同様に防衛義務はない。

角田保行日本モレックス(株)人事総務本部長:核密約問題について伺いたい。

森本敏拓殖大学教授:安保条約の事前協議制度は、米軍の配置や装備の変更、戦闘作戦行動の際には日本政府と事前協議をするというもの。艦船の一時寄港は通過であり、持ち込みにあたらない、との米国の解釈に合わせ過去50年事前協議なしに黙認し続けたもの。米国は一貫して「NCND(確認も否定もせず)」政策だ。事前協議制度と核抑止(NCND政策を含め)の調和をいかに図るか、の観点から核密約問題公表後の扱い方について検討中。

田丸周FEC常任参与:「日本はNATO入りを希望」と外務省高官から聞いたが真意は何か。

森本敏拓殖大学教授:冷戦終焉後NATOの目的は変質し、アフガン等自国外の安全保障活動が中心。脅威が消えた欧州と脅威を抱える日本の立場は異なる。他地域へ自衛隊を派遣中に日本が攻撃されたらNATO加盟国は共同防衛してくれるのか。下から積み上げた議論ではない。

渡邊日米文化経済委員会副委員長:外務、防衛の双方4閣僚による日米安全保障協議は迫力に欠けるのではないか。

森本敏拓殖大学教授:米国の安全保障担当は国防総省、日本は外務省ゆえ2+2協議となった。協議の実態はセレモニーだ。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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