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脇祐三日本経済新聞社論説副委員長を招き第43回FEC中東問題研究会・昼食会

日中東文化経済委員会

2009年03月04日更新

「中東産油国の経済環境変化と日本」を演題に脇講師が中東の現状を詳しく=FEC日中東文化経済委員会

約1時間中東情勢を語る脇講師(中央)

約1時間中東情勢を語る脇講師(中央)

立って主催者あいさつの小長啓一FEC日中東委員長

立って主催者あいさつの小長啓一FEC日中東委員長

とき

平成21年(2009)3月4日(水) 12時〜14時

ところ

ホテルオークラ東京

概要

脇祐三日本経済新聞社論説副委員長を招き第43回FEC中東問題研究会・昼食会を開催

内容

 FEC日中東文化経済委員会(委員長、小長啓一AOCホールディングス(株)参与・元通産事務次官)は、3月4日、第43回FEC中東問題研究会・昼食会を脇祐三日本経済新聞社論説副委員長を講師に招き、「中東産油国の経済環境変化と日本」と題してホテルオークラ東京で開催した。
埴岡FEC理事長の開会あいさつに続き小長委員長は「世界経済危機の中で、中東・ドバイの経済崩壊などがニュースとなっている。サウジアラビア、イラク等の経済情勢はどうなっているのか、本日の研究会は中東・エネルギー問題の第一人者の脇日経論説副委員長からその現実を聞く貴重な場となる」と主催者あいさつ。

懇談・質疑応答

 講演後は昼食を挟んで脇講師と出席のFEC役員、法人会員の企業代表者が活発な質疑応答を行った。冒頭元駐イラク大使の片倉邦雄FEC日中東委員長代行が140ドル台の価格が数ヶ月で一気に40ドル台に下がったが、現在の米国を中心とした石油先物市場の動きについて質問。脇講師が「1983年に設置されたニューヨーク先物市場は、産油国が価格を一方的に決定するのではなく消費国再度からの価格は必要であり、ただ機関投資家が加わったことによっての暴騰であった。将来的には石油の供給不足が起きるであろう」と答えた。

 続いて松尾邦彦国際石油開発帝石(株)会長が、中東とは多面的な付き合いは必要だが、一私企業としてできることは限界があると述べ、小長委員長は天然ガス問題を、松本健一サクラ機械(株)会長は、ドバイ訪問後の現地事情に日本のマスコミ報道の大きな違いを指摘。中嶋洋平日油(株)会長は今後の中東の政治体制について質問した。

講演要旨

【膨張する中東社会と若齢化のインパクト】

20世紀末から21世紀にかけてイスラム復興の流れが強まり、政治のきしみが増した背景には、(1)geography–中東と政治的に連動する地域が広がっている、(2)demography–人口の爆発的な増加で中東社会自体が膨張している──という構造変化がある。
ブッシュ前政権が進めた対テロ戦争のキーワードは’the broader Middle East’。狭義の中東を超えて広がる中東的な世界に対し、米国は軍事力をテコに介入し挫折した。
映像メディアとインターネットが、中東を超えるイスラム同胞意識を形成。イスラム移民社会を内包する欧州で、マドリード、ロンドンのテロ、フランスの移民騒乱など。
イスラム過激派は緩やかに結びつくネットワーク。アルカーイダの物理的基盤が破壊されても、過激派はサイバー空間という自由に活動できる世界を確保した。
中東は人口増加率が高い。中東・北アフリカ(MENA)の人口は1970年・1億9千万人→95年・3億8千万人と25年間で倍増した。1990年代からイラン、レバノンなどで出生率の低下が目立つようになり、アラビア半島諸国でも出生率は低下傾向を示すが、それでも国際比較では相対的に出生率が高い。一方、医療の浸透で子供の死亡率は劇的に低下。結果として高率の人口増加が続き、2020年には6億人に達する見通し。
日本の少子高齢化と対照的な中東社会の最大の構造問題は「多子若齢化」。中東では全人口の6割〜7割が25歳未満。若者が増え、学校を出ても職がない状態が中東全体に広がる(自国民の絶対数が少ないUAEとカタールは例外)。国際労働機関(ILO)によると、MENAの若年失業率は世界最高。かつては学卒者の多くを役所や国営企業に抱え込めたが、パブリックセクターはすでに満杯、民間部門の成長は遅れ気味で、新たな雇用機会が乏しい。雇用問題で不満を強める若年層を反体制勢力がオルグ。
GCC諸国での若年失業には「学力や技術の不足」「職のえり好み」といった問題も。
1990年代にグローバル化の波が押し寄せ、経済活性化とグローバル経済への対応で中東諸国の多くが構造改革に着手。補助金カット、役所のスリム化、民営化など。雇用創出のための産業多角化には外資の誘致が不可欠で、市場原理浸透と投資環境の整備に動く。構造改革は一方で「格差」広げた。新たな富裕層が台頭した半面、低所得層の打撃は大きい。パレスチナのハマスやレバノンのヒズボッラーなど地域に根を張る原理主義組織は、祉NGO・NPOとして存在感を高め、政治勢力としても台頭。



【資源高騰による急成長の光と影】

2004年から原油高騰が本格化、中東産油国は04〜06年の3年間だけで1990年代の10年分をしのぐ石油輸出収入。
9・11以後の米国から地元へのアラブ資金の還流も。湾岸の投資資金が周辺地域にも向かい、開発プロジェクト・ラッシュ。世界の原油確認埋蔵量の60%以上、天然ガスの確認埋蔵量の40%は中東に集中しているため、資源価格高騰に連れて石油化学などの分野で先進国から中東への生産拠点移転の投資も拡大した。
サウジアラビア、クウェート、UAE、カタール、バーレーン、オマーンの湾岸協力会議(GCC)6カ国の2007年の名目GDPは2003年の2倍の規模になった。中東・北アフリカ全体でも同じ期間に名目GDPの規模はほぼ2倍に膨らんだ。
サウジでは1990年代後半にGDPの120%に達した政府負債がGDPの20%以下まで縮小した。一時期8000ドルを割り込んでいた一人当たりGDPも07年には1万5000ドル台まで回復し、08年には1980年代初めのピーク時を上回る2万ドル乗せ。08年の一人当たりGDPでカタールは10万ドル、UAEは5万6000ドル、クウェートは4万6000ドル程度と、IMFは推計。
UAEのドバイは国際的なビジネスセンター、物流ハブとして急速な発展。1990年代から天然ガス開発が始まったカタールとともに、他の中東産油国とは異なる発展パターン。ドバイは石油に依存せず、周辺産油国資金や外国資本の導入をテコに経済開発。
ドバイに刺激され周辺のサウジ、バーレーン、カタール、アブダビなどでも、「経済都市」「金融センター」「物流基地」「リゾート開発」などのプロジェクトが目白押しに。GCC6カ国の進行中および計画済みのプロジェクトは08年に2兆ドルの大台を突破。
原油高騰に伴う所得移転。GCC6カ国の経常黒字の合計は2005年に日本の経常黒字を追い越した。米国は赤字の補てんを中国やサウジなどの米国債投資に頼る国になった。
サブプライム・ローン問題噴出後の金融不安では、米欧の巨大金融機関の緊急増資で中東産油国の政府系ファンドが資金を出し、マネーの力学の変化を象徴。アジアへの投資も急拡大し、アジアのインフラ整備や経済開発で中東の資金の重要性が増した。
一方2007年から08年にかけて湾岸産油国は軒並み2ケタの物価上昇局面に入り、インフレが深刻な問題になった。短期間に多くの建設プロジェクトが集中したため、資材や技術者・労働者が足りず、資材価格や人件費が急上昇。通貨価値がドルと連動しているため、主要通貨に対するドルの価値下落と連動して消費財や食料などの輸入物価が上昇。通貨供給量が急増したのに、ドル連動制のためドル金利からかけ離れた水準に自国の金利を引き上げる引き締めができなかった。サブプライム・ローン問題が火を噴いた07年後半から米国が利下げに転じたため、GCC諸国は追随利下げを強いられた。過剰流動性にブレーキをかけるのが難しかったため、不動産の相場も大幅に上昇、オフィス・住宅・店舗・倉庫などの家賃急騰を招き、これが一般物価の上昇につながった。


【世界金融危機の深刻化による急減速】

昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以後、信用収縮の波は中東にも波及。GCC諸国にとって昨夏までの最大の問題は過剰流動性に伴うインフレ加速だったが、9月以降は資金調達が困難になり調達コストが急上昇したこと。石油部門がGDPの5%に満たないドバイの景気暗転など、油価の下落よりも金融危機の影響が深刻。各国中銀は政策金利を引き下げたが、市場金利ははるかに高い水準に。12月から多少落ち着いたとはいえ、域内の企業や金融機関などの資金調達や借り換えの難しさは大きな問題。

イスラム金融も多分に国際的な金融危機の影響を受けた。普通社債と同様に、近年発行額が急増していたスクーク(イスラム式債券)の金利相当分も拡大(債券価格が下落)し、スクークの発行にも急ブレーキがかかった。
株価下落でGCC諸国の上場株式の時価総額は昨年5000億ドル以上も失われた。シティグループなどの緊急増資に応じてきた政府系ファンドが、クウェート、カタールなどで最近は国内株式相場の下支えに出動を求められている状態。

2ケタの上昇率だったインフレが沈静化する兆しは朗報。インフレの主因だった過剰流動性は信用収縮で歯止め。ドル相場がとりあえず堅調になったことは、自国の通貨価値をドルに連動させるGCC諸国にとって出稼ぎ外国人の賃金や輸入物価の上昇圧力低下につながる。鋼材など資材価格の下落は物価安定や開発事業のコスト抑制にプラス。インフレの背景にあった不動産相場の上昇が止まり、一部で下落に転じたことも、インフレ沈静の追い風。国際金融協会(IIF)はGCC6カ国のインフレ率が08年の12%から09年には7.6%に低下すると予測。さらに下がる可能性もある。
資金をサウジ、アブダビや欧州・アジアの投資家など外部に大きく依存してきたドバイの不動産開発は一種のレバレッジ・モデル。シティグループは「GCC域内で金融危機の打撃を最も受けやすいのはドバイ。懸念の一つはこれまでに累積した借金をどうやって借り換えるかだ」と指摘。11月下旬にエマールのアッバール会長は「ドバイでは政府の債務が約100億ドル、政府系機関・企業の債務が約700億ドルで、合計約800億ドル」と説明、「政府資産が900億ドル、政府系機関・企業の資産が2600億ドルあるから、債務不履行にはならない」と強調したが、公的資産のうちどの程度に流動性があるかは明らかではなく、市場の懸念は簡単には鎮まらなかった。
ドバイの政府系デベロッパー、ナキールへの与信について、昨年末には「スプレッド(上乗せ金利)はLIBORプラス700bp」との声もあったほど。ドバイでは不動産開発事業の一部凍結や、不動産関連企業の人員削減が進んでいる。
結局、ドバイ政府は2月22日に総額200億ドルの政府債発行を発表、このうち100億ドルはUAE中央銀行が引き受け。これを原資にして、当面のドバイ政府機関や政府系企業の借り換えや社債の償還などに対応する(ドバイ政府系企業の借金のうち150億ドルが2009年に返済期限を迎えるといわれていた)。
昨年中にドバイの不動産金融会社2社がアブダビ政府系銀行に実質的に救済合併されたのに続く、ドバイの苦境をアブダビが救う構図。ドバイのムハンマド首長はUAE連邦政府の首相でもあるが……。
不動産の実需の減退は2009年にさらに進みそう。物流・ビジネス拠点としてのドバイの国際競争力は強いが、不動産部門の陰りや世界的な物流の伸びの鈍化で、ドバイ首長国政府の「2015年まで年平均11%の実質経済成長を続ける」目標達成は困難に。現地紙の報道によると、「ドバイのGDP成長率は昨年8%前後に減速し、今年は2.5%を少し下回る程度になる」と地元のエコノミストは予測している。さらに成長率が下がるとの見方も。ドバイ首長国政府は景気下支えのため、今年は歳出が前年比43%増という赤字予算を組んだ。
ドバイ以外も開発ラッシュのスピード調整の時期を迎えた。サウジでは総合投資院(SAGIA)がドバイ企業などと連携して国内各地に建設する予定の「経済都市」構想について、すでに着工したラービグの「キング・アブドッラー経済都市」以外はプロジェクト・ファイナンスの難航もあり、計画の凍結や規模の縮小も予想される。
サウジの経済都市計画のような’民活’プロジェクトは、金融危機・信用収縮の影響を受けやすい。一方で政府や国営石油会社が直接実施する事業のかなりの部分は、引き続き遂行する構え。水、電力、エネルギー、教育関連などの事業は優先度が高い。ただし、鋼材などの資材価格の下落をみながら、工費節約のため入札の先送りや、やり直しも。
ジェッダの高さ1マイルのビル計画も凍結へ。「過大」と思われた開発事業が金融危機で合理的な範囲に修正されることは、中東産油国にとって必ずしもマイナスではない。
昨年7月11日にWTIで1バレル=147ドル台の最高値を付けた原油相場が、一時40ドルを割り込む状況。金融商品としての原油先物から投資資金が逃げ出し、世界的な実需の減退も大きく影響。国際エネルギー機関(IEA)は2月の月報で2009年の世界の石油需要を、25年ぶりに前年比マイナスになった08年実績からさらに日量約100万バレル少ない8470万バレルと予測。中国の備蓄積み増し用など中東原油のアジア需要はそこそこ見込める。最近はデファレンシャルが逆転。ドバイがWTIより高い。
OPEC内では需要確保重視のサウジも「望ましい価格は75ドル」(アブドッラー国王)としている。今は比較的まじめに減産に取り組んでおり、さらに減産を強化しようとする動きもある。だが、GCC諸国は国内の電力・造水・石油化学・金属精錬産業などに供給するガスが足りないという別の問題に直面しており、原油の減産強化は随伴ガスの産出減につながって国内のガス供給不足をさらに深刻化させるというジレンマも。
国際金融協会(IIF)は、2009年の原油価格が平均56ドルという前提で、GCC6カ国の実質成長率が08年の5.7%から09年には3.6%に減速すると予測したが、その後さらに油価は下落。IMFは年明け後にGCCの09年の実質成長率見通しを5.1%と予測したものの、2月になって「各国の財政出動が支えになるものの、09年の実質成長率は3.5%程度になりそうだ」と一段と下方修正の見解に。油価下落をダイレクトに反映する名目成長率は20%以上のマイナスになるだろう。
ただし、過去数年の空前の好況の間の貯金が逆風をかなり和らげる。サウジは当初予算比で歳出が昨年を上回る予算を組んだ。原油価格が40ドル前後だと、サウジでも財政収支は赤字に転じるが、政府の負債がGDPの120%に達していた1990年代とは様変わりで政府負債のGDP比も軽くなり、財政の制約が少ないから、いざとなれば再び国債を発行してもいい。インフラ整備など積極財政は続く。同じ産油国でもロシアは今年、マイナス成長に転落する可能性大だが、多子若齢化社会で人口急増と国内市場の拡大が続く中東産油国の場合、減速はしても景気について過度な悲観論に陥る必要はない。
特にサウジは公的資産の運用が保守的で米国債投資が中心だったから、リーマン破綻以後にドル価値が持ち直したこともあり、傷が浅い。
これに対しクウェートは金融危機の影響がかなり大きい。同国第2位の商業銀行ガルフバンクがデリバティブ取引の失敗で昨年秋に公的管理下に入ったし、外国株式での運用が多い政府系ファンド・KIAも巨額の評価損。国民の多くも外国株・国内株への投資で大きな損失を出しているので、消費も冷え込んでいる。
日本の輸出は昨年11月からすべての地域に対してマイナスだが、前年同月比減少率を見ると、中東向けの落ち込みは相対的に小さい。湾岸の新聞には「世界不況の中で、この地域の景気が一番まし」といった趣旨の見出しも載っている。国別ではグローバル金融危機から距離が遠いイラン向け輸出はなおプラス。GCCではサウジ向けの落ち込みは1ケタのパーセンテージにとどまる一方、クウェート向け、UAE向けの減少幅は大。
トヨタ自動車の営業担当者はドバイの英字紙に「過去5年間GCC市場の自動車販売台数は前年比20%超の伸びを続けたが、2009年は3〜5%の伸びにとどまろう。2010〜11年には10%前後の伸び率まで戻ると期待している」と語る。

IMFはGCC6カ国とイラン、イラク、アルジェリア、リビア、スーダン、イエメンの2009年の石油収入が前年に比べ3000億ドルくらい減るだろうと予測。
原油相場が40ドル台以下で低迷すれば、GCCの経常収支は赤字に転落する。追加の対外投資余力が減退する中で、クウェートやカタールなどでは政府系ファンドが自国の株価下支えや国内金融機関の資本増強にも資金を振り向けている。まずは自国の経済が大事というところだが、2004年以来、中国とともに米国債購入増が目立ったサウジなど湾岸諸国が、今後の米国の国債大増発にあたってどう対応するのか。巨額のドル建て資産を保有し、ドル暴落を避けたいという点では、中国と同様にサウジなども米国と当面の利害を共有しているが、これからのオイルマネーの行方もウォッチする必要がある。


【日本との関係での留意点】

中東産油国の対日感情は極めて良い。欧米とは違って中東で手を汚した歴史がなく、日本の近代化や戦後の復興、社会秩序は中東では模範とされ、日本企業、日本の技術、日本の製品への信頼も高い。湾岸産油国も日本を最有力顧客として大事にしてきた。
とはいえ、日本の石油市場は縮小する方向。一方で中国の石油輸入量は拡大を続けるし、インドも同様だ。2005年に即位したサウジのアブドラ国王が初の公式外国訪問として06年1月、まず中国とインドを訪れたように、石油需要の確保を意識するようになった中東産油国から見て重要なのは「これから購入量を増やしてくれる客」であり、日本は相対的にバーゲニングパワーが低下。
日本は原油の9割近くを中東に依存し、中東は天然ガスでも重要な産出地域。中国の動向なども踏まえて日本はエネルギー安全保障を考える必要がある。だが、中国に対抗し日本が同じようなコスト度外視の「資源あさり」に走るのは愚策。日本に必要な政策は「脱中東」ではなく、中東産油国との関係の再強化。ソフトパワーを活用すべきだ。
中東側が日本に期待する3大分野は、(1)産業多角化・雇用機会創出のための直接投資と技術移転、(2)人口爆発と産業多角化に対応するための水や電力などのインフラ再整備、(3)自国民を雇用可能な人材にするための教育・職業訓練。
07年の4〜5月に当時の安倍首相が「石油を超えた重層的な協力関係」を目指すとしてサウジ、UAE、クウェート、カタール、エジプトを歴訪、経団連ミッションがこれに同行。各国との共同声明には、相互の投資促進のための二重課税回避の協定作りや、インフラ整備の協力に加え、「教育は国造りの礎」との共通認識に立った教育や職業訓練での日本の協力も盛り込んだ。日本が石油・天然ガスを輸入し、耐久消費財やプラントを輸出する貿易中心の関係から、中東の国造りへの多面的な協力へと進む一歩に。これをどうやって具体化していくかが大きな外交課題。
特に人口爆発と若年失業という構造問題を抱える中東諸国が、「教育改革」「職業訓練」「技術教育」などを内政の優先課題に据えたいま、この分野での協力が重要に。
省エネ、環境、電力、水関連など日本が得意とする技術分野や技術教育などで、日本のソフトパワーへの期待は極めて大。中東側のニーズと日本のビジネスを日本の外交戦略にうまく結びつけることが重要。インフラ分野でこれまでの日本企業の活動は、部材・機材のサプライヤー、建設請負が中心だった。IWPPへの出資などが増えているのは一歩前進。だが、インフラ事業とは相手国のニーズに対応したソリューション・ビジネスでもあり、水でいえば淡水化・上水・下水・循環再利用というシステムのグランドデザイン、トータル・ソリューション・ビジネスとしての取り組みで日本勢は遅れ。
省エネや再生エネルギー、原子力といった分野もこれからの焦点。中東産油国の石油の国内消費の増加は著しく、原油生産能力をこれから増やしても内需に食われて2010年代中に実際の輸出量は減少に転じるとの予測もあるほど。一人当たり一次エネルギー消費量やCO2排出量でGCC諸国は米国を上回るほどだから、省エネも重要。アブダビやサウジを中心にソーラーなど再生可能エネルギー利用への関心が急速に高まっており、この分野での日本の対応は急務。さらに原発導入ブームにどう対応するか。
いまの中東は投資資金が官民とも豊富。伝統的な投資先だった米欧だけでなく、アジアに新しい投資先を探している。中東マネーを日本に呼び込む、アジアに誘導して第3国での共同事業を考えるといった発想も、これから重要になる。
FTA推進も外交の重要テーマ。日本はGCCとの自由貿易協定交渉で、EUや中国、インドなどに遅れ気味。EUの地中海パートナーシップや地中海連合の戦略が示すような大きな構想力と実行のスピードも問われる。




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