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白川方明第30代日本銀行総裁を招き第9回FEC日EUビジネスエグゼクティヴスフォーラムを帝国ホテルで開催

日欧文化経済委員会

2008年11月25日更新

日欧文化経済委員会=欧州等34カ国大使らと企業代表者210名が出席

第9回日EUビジネスフォーラムで講演の白川日銀総裁催

第9回日EUビジネスフォーラムで講演の白川日銀総裁催

第9回日EUビジネスフォーラム開催風景=帝国ホテル

第9回日EUビジネスフォーラム開催風景=帝国ホテル

とき

平成20年(2008)11月25日(火) 12時〜13時45分

ところ

帝国ホテル「孔雀の間」

概要

白川方明第30代日本銀行総裁を招き第9回日EUビジネスエグゼクティヴスフォーラムを開催。

内容

テーマ


白川日銀総裁の講演テーマ「内外金融経済情勢と日本銀行の政策運営」



内 容



 FEC日欧文化経済委員会(委員長・藤田弘道凸版印刷(株)相談役)は11月25日、白川方明日本銀行総裁を招き、第9回日EUビジネス・エグゼクティヴ・フォーラム・昼食会を帝国ホテルで開催した。フォーラムには、ヴァイヴァルス駐日ラトビア大使、バストル駐日オ〜ストリア大使、ヘーア駐日オランダ大使、ケネディー駐日ニュージーランド大使をはじめ、34カ国の公使参事官等大使館関係者、FEC法人会員の大手企業代表者ら約200名が出席した。

開会に際して藤田弘道日欧文化経済委員長は、「世界的な金融経済危機に対し、20カ国首脳による金融サミットが開催されたが、危機打開の道は依然濃い霧の中だ。金融危機を10数年前に体験済みの白川総裁を本日お招きし、直面する金融危機の背景、金融政策運営についてご講話をいただけるのは時宜を得た催しで、世界不況回避に向けての大変有意義な場。厚く御礼申し上げる」と主催者挨拶。埴岡FEC理事長より、「白川総裁は、3月に副総裁に就任、奇をてらわず功を焦らず誠実、着実に職務を果たされ、4月に総裁へ就任された。人柄、見識申し分なく、後世に名を残す総裁となろう。福井前総裁からも「これで目出度し目出度し」と祝意が寄せられた。ご経歴の通り、金融政策運営については錬達の士。今後の免許皆伝は確実であろう。世界の難局に対するご存念をお伺いしたい」と白川総裁を紹介の後、白川総裁より、「内外金融経済情勢と日本銀行の政策運営」をテーマに、世界経済と日本経済、金融危機の背景、金融政策運営について率直な所感が述べられた。



白川総裁の講話要旨


 IMFの世界経済見通し(11/6公表)では、先進国の09年成長率が初めてマイナスとなる。11月のG20会議における各国の認識も同様で、経済見通しが短期間で急激に下方修正されている。世界経済の急激な減速は、€急速な国際商品市況上昇が交易条件を悪化させ、実質所得と消費・投資の減少を招いた。日本で最大の影響。 世界的なインフレ上昇により新興国を中心に金融引き締め策が導入された影響。!国際的な金融資本市場の混乱が、金融逼迫と実体経済悪化を招いた事、による。!が最大の要因。

 米国の自動車販売不振も、自動車ローンの抑制に起因しており、欧米の銀行の貸出基準が厳格化している。米国ではFRBが政策金利を約1年間に4.25%引き下げたが、社債金利や住宅ローン金利は低下せず、9月のリーマン破綻以降家計と企業の金融逼迫が顕著となった。米国投信の大きな運用対象のCPの額面割れから投信解約が相次ぎ、企業のCP調達が困難となった。金融環境のタイト化が景気を下押ししており、こうした金融システムと実体経済の負の相乗効果に日本もバブル崩壊後長期間苦しめられた。

 10月以降新興国からの資本流出が顕著となった。これまで経済が発展していた中東欧でも、欧州系銀行の損失・資本不足が表面化、資金回収が加速しIMFの緊急支援が発動された。世界経済は過去4年間高成長と物価安定の良好な状態が持続し、ある部分ユーフォリア(陶酔的熱狂)から過大なレバレッジが発生した。現在の世界的な金融危機と世界経済の減速は、このレバレッジの巻き戻し過程の現象と云える。

 現在の金融危機はサブプライム・ローン問題が発端だが、信用バブルの拡大と崩壊といえる。資産価格の上昇と借金増加により発生した現象だ。ITバブル時は株価は上昇したがレバレッジは拡大しなかった。自己資本不足問題は、米国では家計と金融機関、日本では金融機関と企業で表面化し、市場では取引相手のリスクに疑心暗鬼となり、流動性調達への不安拡大と金融機関のリスクテイク余力が低下した。市場の緊張は10月上旬にピークを迎え、G7で金融システムの信認確保のための「行動計画」が発表された。流動性供給、金融機関への公的資金注入、金融機関債務保証がその骨子で、その後銀行間取引の上乗せ金利は改善したが尚高水準で、市場は依然強い緊張状態にある。

 当面厳しい状況が続き、経済全体の過剰が解消されない限り経済成長の回復は見込めない。金融機関への資本注入で金融以外の過剰は解決できない。資本注入は必要条件だが十分条件ではない。設備、雇用、債務の3つの過剰に直面した日本は、98、99年に公的資金を入れ5年後に景気は底打ちした。米国では金融機関対策(不良債権買取)は発動されたが家計、住宅部門対策はまだだ。

 日本経済は昨年まで拡大を続けてきたが、現状は停滞色が強まっている。€交易条件の悪化、 世界経済減速による輸出の減少、!企業金融環境の変化、が主要因。金融システムは欧米に比べ良好だが、10月以降CP、社債のスプレッドが上昇開始し、銀行の貸出姿勢も厳しくなるなど緩和度合が低下している。IMFの日本の成長率見通しは月を追って下方改定されており、日銀も景気の下振れリスクに注意している。来年央まで今の状態が続き、その後徐々に回復する見通しだ。不確実要素も多く、予断をもたず丹念にリスク要因を点検し、政策運営にあたりたい。

 世界経済の回復には過剰の調整が必要で相応の時間を要するが、経済が深い調整に陥ることを回避する手当ては必要との基本認識。「金融市場の安定確保」が、世界の中銀の最大の貢献。無利子の流動性供給が可能で、独立性が付与されている。日銀は各国中銀と協調しドルを無制限に供給できる体制にした。日本の金融機関、企業のドル調達不安除去を通じて、経済活動の下支えに貢献している。先月、政策金利(翌日物コール金利)の誘導目標を0.3%へ引き下げたが、利下げは万能ではない。かつて量的金融緩和で市場金利がゼロ近傍へ低下した局面では金融市場の動きが停滞した。ある程度の金利がないと短期市場機能が阻害される。今後、企業金融支援策も強化する方針でCP現先オペ等を検討中。

 金融危機の教訓について。証券化商品等使用された商品は新しいが、今次金融危機は古典的な信用バブルの発生と破裂だ。良好な経済の持続と積極的行動を正当化するストーリーが、レバレッジを拡大させ信用が膨張した。金融政策運営では、デフレの危険が過度に意識され低金利が持続した。反省も必要。現状は蓄積した巨大な不均衡の巻き戻し局面にあり、利下げの効果は薄い。中長期的な金融政策の点検も必要だ。金融活動を否定する極端な議論は危険。経済発展に金融は大きな役割を果たしており、反省すべきはリスク管理だ。証券化商品は大数の法則でリスク分散が有効となるが、大数の法則以前に全米で住宅バブルが発生した。金融機関のリスク管理において、個別リスクだけでなくマクロ的視点も意識し判断することが求められる。日本の教訓や現実について、成功・失敗事例を積極的に対外発信し、新しい金融システムの制度設計に貢献することが大切だ。



懇談・質疑応答


内藤リンナイ取締役会長:英国の製造業が衰退したように、産業資本主義は発展・衰退の歴史。加工貿易立国の日本の発展には新規産業の育成が重要で、金融業の成長にも必要だ。総裁のご見解は。

白川総裁:自分は長期楽観主義。悲観論から新しい成長が生まれよう。世界経済は短期的に厳しいが、人間の欲求と知恵がある限り長期的に成長できる。新規産業の創出など実体経済における金融の役割は小さくない。

一般出席者:今後半年間、どのような政策対応が可能とお考えか。

白川総裁:金融市場の安定維持が重要だが、過度の政策は経済を不安定化する。98-00年の流動性供給には工夫した。今回FRBの措置が称賛されたが、かつて日銀が実施した時は評価されなかった。手段と目的に照らして着実に政策運営する所存。



謝辞:山本健児FEC理事・アール・ビー・エス証券会社東京支店金融法人企画本部長


 日々ご多忙な中、貴重な講演をいただき厚く御礼申し上げる。今次金融危機に対する日銀の、利下げ、政策協調等金融システム安定化に向けた積極的な政策を我々は大変評価する。「金融政策で不均衡を帳消しにできない」との見解であるが、今後とも行き過ぎない程度の積極的な政策運営をお願いしたい。



閉会あいさつ



 埴岡理事長が重ねて総裁に御礼を述べた後閉会した。


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