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服部健治中央大学大学院教授を講師に招き第62回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会

中国 日中文化経済委員会

2010年01月28日更新

中国経済の実態と課題、日中経済関係をテーマに講演

講演する服部健治中央大学大学院教授

講演する服部健治中央大学大学院教授

第62回FEC中国問題研究会の開催風景

第62回FEC中国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)1月28日(木)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

服部健治中央大学大学院教授を講師に招き第62回FEC中国問題研究会を開催した。

内容

民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長・生田正治(株)商船三井最高顧問)は1月28日、服部健治中央大学大学院戦略経営研究科教授を招き、「中国経済の実態と課題、日中経済関係」をテーマに第61回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、生田正治(株)商船三井最高顧問、稲森俊介味の素(株)特別顧問、岡崎真雄ニッセイ同和損害保険(株)名誉会長、内田勲横河電機(株)代表取締役会長、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、山口範雄味の素(株)代表取締役会長、小野寺優(株)ニフコ代表取締役社長ら、多数のFEC役員・会員が出席した。

開会に際してFEC日中文化経済委員長の生田正治(株)商船三井最高顧問・日本郵政公社初代総裁より、「FEC日中文化経済委員会は先月から中国月間を始め、まず石平氏を招きお話を聞いた。そのお話を一言でいえばブレジンスキーではないが’Fragile Flower China’のような話であった。一昨日は東京新聞論説副主幹の清水美和氏より習近平国家副主席の政治的な話で、本日はいよいよ中国経済の深いお話をお聞きできるのを楽しみにしている」と主催者代表の挨拶があった。続いて、服部講師より中国経済の実態と課題について日中経済関係も踏まえて、レジュメに基づき詳しい説明と率直な見解が述べられ、講演後中華料理をともにして出席者と一問一答の懇談が活発に行われた。

講演要旨

私自身の中国への考え方あるいは視点というのは抽象的な理論から現場をみていくというのではなくて、現場を調べた上で一般化具現化していく帰納法で、中国のマクロやミクロを分析している評論家とは違い、私は日本企業の方々に中国でビジネスをするためには中国に合わせたやり方をするよう助言するなどの動態的な視点を持って進めている。

日本企業の連結決算では中国で稼ぐ企業が相当ある。日産、ホンダ、日本製陶などですが、どうしても中国に進出せざるを得ない状況がある。また、GDPが今年日本を抜いて世界第2位、アジアでは1位になる。一昨年のリーマンショックでは中国、日本のみならず世界中が影響を受けたが、その中で中国の回復は非常に早い。中国のGDPは一昨年の第三四半期から急激に下がるが、昨年の第一四半期には回復を始め、まさしくV字型回復と遂げた。政策要因と経済構造要因がある。政策要因は、リーマンショック以降中国は4兆元の景気刺激策を迅速に実施した。更にきめ細かな施策を主要10産業に実施した。農村の市場化や自動車購入優遇措置を実施し、巨額の新規貸付、所得減税も実施した。経済構造要因には、都市化の推進、農村再開発、上下水道の整備や、高速鉄道、高速道路などの交通インフラ網の拡充がある。加えて、富裕層と中間階級の増加による購買力の拡大がある。国債増発による地方政府への財政支出の増加も加わりV字回復に繋がった。

但し、課題も多い。供給面から経済成長を見ると、依然として資本、労働投入中心の発展パターンで、全要素生産性(TFP)は低く、技術革新がなされていない。また成長による格差拡大の問題、労働の質と量の問題、財政赤字、資産バブルの懸念、資金需要を賄うための国債発行が民間の資金調達を阻害するクラウディングアウト現象が見られる。

中国の改革・開放30年の成果を振り返り、今後の展望を考える。中国は1978年に改革開放を開始、巨大な経済規模に発展した。GDPは今年中に日本を抜いて世界第2位に。とりわけ中国政府としてはレアアースを握っている。その上国際経済との緊密化、グローバル化を推進している。WTO加盟、ASEAN・FTA締結、台湾・CEPA(経済貿易緊密化協定)締結により、企業の対外進出、対外援助も増大、30年間で巨大な経済発展を遂げた。発展の原動力は、計画経済時代に構築された重化学工業を中心とするエネルギー多少費型の産業構造だ。農村・都市の戸籍問題があるが、廉価で膨大な農民工がいる。行政による土地開発やダム、鉄道、高速道路、空港、港湾、新幹線等の超大型公共投資から地価が高騰した。外資も活用した。ODA、外国企業の直接投資、輸出の拡大により中国は発展してきた。但し、生産性は伸びていない。人と金だけ使って成長した。

中国は、80年代から90年代半ばの日本経済のバブル崩壊過程を学んで来た。90年代半ば以降は米国から金融、投資、ITなどの市場主義経済、経済のグローバル化を学び、進めてきた。そして今回のリーマンショックでまた、目標を失い、中国は自分自身で目標を持つ時代に代わって来た。鄧小平モデルの終焉から胡錦涛モデルの構築へ転換を進めている。鄧小平モデルとは豊かさを求める社会主義だ。今日の中国は’旗は共産主義、発言は社会主義、行動は資本主義、土地は封建主義’で中国は市民革命、産業革命が行われなかった。胡錦涛モデルとは、’等しからざるを憂える社会主義’みんなで豊になるため、経済成長と社会発展のバランスを重視する。中国大衆は、(1)金持ちになることへの自由享受、(2)ナショナリズムの喚起、(3)共産党は安定維持の供給弁、の理由から現政権を支持している。中国経済の新段階を迎え、政策転換を行う段階に来ており、外資選別と積極的な対外資源獲得を進めている。

日本は中国から、(1)Vitality、(2)Speed、(3)Flexibilityの3つを学ぶべきである。中国経済近代化の課題として成長制約要因は何かと考えるとわかりやすい。一つは中国経済の抱える問題、二つ目は持続的成長の阻害要因だ。経済体制の如何にかかわらず、長期的に顕在化する課題として、輸入依存の増大が進む食料、エネルギー不足の問題。生態系の危機を迎える水資源の枯渇、環境破壊の問題。失業と雇用、労働力人口の高齢化(セーフティネットがない)等の余剰労働力問題。市場経済移行に伴ない、経済格差、制度腐敗、バブル経済、知的財産権侵害、拝金主義、腐敗増大、海外逃避等社会的連帯感の喪失、の問題がある。中央・地方政治の市場利用など政経未分離の構造的連鎖も問題。経済水準が低いゆえに取り組まなければならない課題として、技術革新、人材養成、法治主義がある。「発展途上国」特有の脆弱な秩序意識、希薄な規範性・統一性、低い衛生観念、厳格でない公私峻別、堅固でない公共道徳がある。

持続的成長の阻害要因としては、失業問題、国有資産の不明瞭な処分などの構造腐敗、市場経済の基礎となる信用制度の未整備、党、行政、司法一体による三権未分立の問題、軍隊の問題、複数政党制の問題、経済格差の増大などがあるが、中国国民は疲弊しているかと言えばそうでもない。GDPに把握されない裏経済、地下経済が存在し、地方保護主義がまだ残っている。
中国は人民元地位の向上のため、第一段階として、決済通貨にするための人民元決済協定を既に6カ国と結んでいる。第二段階として、東アジア地域での投資通貨、第三段階として、人民元の国際化を進める計画だ。さらには、アセアンと中国の自由貿易協定(ACFTA)を進めている。

中国が当面目指すのは、国際金融への人民元の影響力行使、全世界での資源確保と販路拡大、軍事的拡張だ。日中経済関係の将来にはどのような障害があるのか。認識のギャップがあるが、中国は戦略を持ち、日本は持っていない。アジア国家としての認識ギャップの問題、中国の台頭に対する見解相違の問題、日中経済関係のグローバル化の課題などがある。人的交流を活発化させ、日中間の経済協力を進め、食の安全、感染症、知的財産権問題の真剣な協議、環境・省エネと技術移転、東シナ海におけるガス田の共同開発、東アジア共同体の議論などに取り組む必要がある。膨大なボリュームゾーンに向けた対中投資の戦略的転換や事業戦略が必要。

懇談・質疑応答

生田正治(株)商船三井最高顧問:一党独裁の強みを発揮して発展を続けている政治体制と、中国の不良債権問題について、中長期的にどうなっていくか。

服部講師:政治制度は非常に原始的な制度。指導者次第であるが、これまでの中国を見ていると市民をリードできる指導者が出てきている。この要因は3つあり、一つは共産主義青年団等下部の組織で訓練させる制度がある。二つめは共産党幹部は毛沢東戦略を勉強、物事を戦略的に中長期的に考える。三つめは地位が上がると共に成長するという人口圧力がかかる制度がある。但し、この開発独裁制度がよいかどうかは疑問がある。過去のアジアの開発独裁国家のように中国が民主化するかということは疑問。不良債権については、金融の不良債権と企業の不良債権の二つあり、企業の不良債権については、国有企業の民営化で解消させている。銀行の不良債権も商業銀行化という形で、今まで持っていたものを事業化することで解消するとの公式見解。2005、6年段階でなくなって来たというが、何を持って不良債権か実態はわからない。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:党学校の仕組みと、それを日本で実現することの可能性は。

服部講師:党学校へは各地区で推薦入学し1〜2カ月勉強する。各地で党の上級に進級する時に党学校に入って勉強する。国家主席になる前にも党学校で勉強する。国際経済、国際金融など幅広く勉強する。党学校に行くことによって各地から推薦を受けて優秀な人材が集まってくる。そこで人脈を作り政治家訓練を受けている。党学校は大都市で8つ位ある。

内田勲横河電機会長:一党独裁で上から下までキチッと指示がいっているからあれだけの効率のよい発展をしていると考えている。IT社会でいろいろな情報も入っており、一党独裁がうまくいかなくなるのではと危惧するが。20年先はどのようになっていくか。

服部講師:多くの大衆は今の一党独裁制度を容認している。不安定な社会をいやがっている。一党独裁を変える要因としては、人々に権利意識が芽生えた時に、今の政治体制の可否が問われよう。まず納税者意識が強くなった時。中国は一切税金の使い道を公表しない。あと中国人の中では連帯感が薄いが、身内血縁は非常に強い。各地で暴動が起こっているのは身内血縁に害が及んでいるからだ。中国は結社の自由を認めていないが、大衆が結社の自由を求め出した時には今の政治体制が変わる可能性がある。

水沼正剛電源開発(株)取締役:中国共産党は日本の自民党を研究し、将来多党化しても一党独裁が継続可能な自民党のようなシステムを考えていた。自民党との関係を深めて来たが、今回自民党が敗れ相当衝撃を受けたと聞いているが、実際どうなのか。

服部講師:まったくその通り。中国の方々は自民党の過去50年間の手法を研究している。

中国共産党の原点は日本に戦争で勝ったこと。国民の求心力を高めるために反日であることが内在している点を日本人はよく理解する必要がある。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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