![]() 異例の外交演説を行なう菅内閣総理大臣 |
と き
平成23年(2011)1月20日(木)16時~16時50分
ところ
帝国ホテル・本館2階「孔雀東の間」
内 容
民間外交推進協会(FEC)は1月20日、菅直人内閣総理大臣をお招きし「年頭外交演説会」を帝国ホテルで開催した。通常国会の施政方針演説を目前にして、総理が外交・安全保障について演説するのは異例であり、FEC法人会員各社代表のほか、米国、英国、ドイツ、フランス、EU、中国、ロシアなど在京120カ国の大使、大使館関係者、政府・外務省関係者、学識経験者、報道関係者等が600人強出席した。
松澤建FEC事務局長・元日本興亜損保保険(株)会長の司会により演説会は進められ、開会に際して、金川千尋FEC会長・信越化学工業(株)代表取締役会長が、「菅総理が歴代内閣では初めての年頭外交演説を行う場に、本協会を選んでいただき、誠に光栄、感謝申し上げる。会員総数は1000件を超え、80カ国強の駐日大使が参画するFECの活動は国内外から高い評価を受けております。地球規模の多くの難問は国際交流を通じた信頼関係の構築なしには解決できません。ハイブリットカーに例えると、政府外交が主エンジンで、本協会の活動は電気モーターと言えます。日本の積極的なリーダーシップ発揮のために、本協会の役割は一層重要で、本日の場もその一環です。今年が皆様に良い年となり、世界の人々の安寧を祈念します」と主催者挨拶。続いて、菅総理は「歴史の分水嶺に立つ日本外交」を演題に、外交・安全保障政策の5本柱を中心に講演を行った。
(演説全文: http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201101/20speech.html)
(Full Text of Speech: http://www.kantei.go.jp/foreign/kan/statement/201101/20speech_e.html)
菅直人内閣総理大臣外交演説要旨
世界は、「歴史の分水嶺」の時代にあり、外交の果たす役割は一段と重要。総理大臣が直接国民、世界へ日本の外交を語ることは大きな意味があり、週明けの、施政方針演説に先立ち、個人的思いも含めて外交・安全保障に関する考え方を述べる。
国際情勢と外交安全保障政策の五本柱
過去20年間で世界経済に占めるG7の割合は低下し、新興国を含むG20の重要性が増大。グローバリゼーションとIT技術の発展により瞬時の情報伝播が各国政治にも直接影響。テロリスト活動、地球環境問題、生物多様性問題も重要課題に。新たなチャンスと不透明性が同時にもたらされており、外交において高い構想力と対応力が求められる。
外交・安全保障政策の「5本柱」は、(1)日米同盟、日米基軸、(2)アジア外交の新展開、(3)経済外交の推進、(4)地球規模の課題への取組み、(5)日本の安全保障環境への的確な対応。
第一の柱:「日米同盟」「日米基軸」
米国とは最も重要な二国間関係。日米同盟は両国への貢献、アジア太平洋地域の安定要素、公共財として評価。国民も積極的に支持しており、維持・強化に加え、安全保障面、経済や人材・文化交流等様々な面の深化が必要。日米同盟も人によって支えられており、若い自衛隊員や海兵隊員が、血を流す覚悟で、任務に当たっている。今年前半に予定する訪米の際に、オバマ大統領と共に21世紀の日米同盟のビジョンを作り示したい。
日米同盟を深化させる上で沖縄の普天間飛行場移設を粘り強く取り組む。沖縄県民に混乱をもたらし気持ちを傷つけた経緯となったことを改めてお詫びする。沖縄には在日米軍基地の74%が集中し、多くの県民に負担。沖縄の本土復帰後も沖縄の基地はあまり削減されていない。慚愧の念に堪えない。
アジアの安全保障環境は北朝鮮の核開発問題など非常に厳しい。日米安全保障条約の堅持と米軍基地の存在は必要。他方、人口密集地にある普天間の危険性の早期除去、在沖縄海兵隊の要員・家族のグアムへの移転、嘉手納以南の施設区域の返還は、沖縄の基地負担軽減のために、是非実現したい。沖縄の痛み、負担を全国民全体で分かち合う努力が必要。米軍基地の負担について、沖縄以外の国民の理解と協力が得られるよう、働きかけたい。
第二の柱:アジア外交の新展開
アジア太平洋の多様性が、活力、ダイナミズムの源となる協調体制構築が地域の長期的発展に必要。アジア太平洋地域諸国間協力の推進と、APEC、東アジア首脳会議、ASEAN地域フォーラムなどの地域協力の枠組みを活用した開かれたネットワークの構築努力が国益、「ウィンウィン」の関係につながろう。
中国は、世界と地域に重要な役割を果たしつつある一方、透明性をやや欠く国防力の強化や海洋活動の活発化には懸念部分もある。昨年起きた事件も極めて残念。日中は一衣帯水の隣国として2000年以上交流してきた。今年は中国近代化の曙となった辛亥革命から100周年。この革命では孫文をはじめ日本に縁の深い人々が重要な役割を果たした。今後日中両国は、政治、安全保障、経済分野に限らず、国民相互の交流深化努力が必要。主要国として責任を分かち合う「戦略的互恵関係」深化のために、首脳間のホットライン、党間交流、民間交流を深める。
日本と韓国は、互いの流行に関心が高まるなど、親近感が強まっており、名実ともに最も近い隣国。 昨年は日韓併合から100年。私は、昨年夏の総理談話で、改めて痛切な反省とお詫びの気持ちを示し、未来志向で新たな協力を誓いあった。朝鮮半島を巡る地域的な安全保障問題や日韓間の自由貿易推進のため、両国が共同して果たす役割は、今後も増大。個人的にも緊密に連携し、深い信頼関係で結ばれた李明博大統領と共に、真の日韓新時代を築いていきたい。
北朝鮮情勢は、北東アジア地域、世界の平和と安定に脅威。 日韓米の連携強化により、2005年の六者会合共同声明の履行を強く求める。拉致、核、ミサイル等諸懸案の包括的解決を図り、日朝平壌宣言に基づき、不幸な過去の清算と国交正常化を追求する。拉致問題は日本国の主権問題。被害者の早期日本帰国に向け尽力する。
ロシア関係では、我が国固有の領土、北方四島の帰属問題の解決と平和条約締結を粘り強く交渉する。領土問題は日本全体で情報、知恵を集め解決にあたる問題。メドヴェージェフ大統領との間では、領土問題解決の協議と経済協力協議を進めることで合意。領土問題の解決がロシア国益に大きく寄与すると、ロシア政府が理解する展開が望ましく、両国の協力関係拡大に取り組む。
第三の柱:経済外交の推進
20年近く続いた閉塞状況を打破し、元気な日本を復活させるために、今年を明治維新、敗戦後に続く平成の開国元年と位置づけ、その実現に取り組む。貿易や投資、人材交流の自由化促進など包括的な経済連携を推進する。昨年合意したインド、ペルーとの経済連携協定を着実に実施し、豪州との交渉を迅速に進め、EU、韓国及びモンゴルとの交渉再開・立ち上げを目指す。日中韓自由貿易協定の共同研究も推進する。協議参加の検討を始めたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、今年6月を目途に交渉参加について結論を出したい。法人実効税率の5%引き下げも、開国を睨んでの決断だ。
農業の再生も急務の課題。農業者の平均年齢は66歳で、耕作放棄地も40万ヘクタールと、埼玉県の広さを超える規模に拡大。日本の農業は貿易自由化の進展有無に拘らずこのままでは衰退する。過去の農業の「守り」から、六次産業化を含めた「攻め」の姿勢に変え、農業を尊び、国を開く、「平成の尊農開国」を推進したい。アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築、空の自由化も推進する。
官民一体のインフラ輸出について、新興国のインフラ需要と日本の技術・資本をしっかりつなぎ合わせることが重要。ベトナムのズン首相との3度の会談も奏効し、原発工事受注に成功。今後の大型案件でも閣僚のトップセールスを進め、日本の得意分野を積極的に新興国の発展と日本の成長につなげていきたい。
天然資源の確保も重要。各国との資源の共同開発を進める。ボリビア大統領との会談では、リチウム電池技術調査団派遣提案や学生の受入実施が双方の国益につながってこおり、こうした関係構築を進めたい。
第四の柱:地球規模の課題への取組み
多くの開発途上国から、日本の長年の経済・技術協力への謝意を受け、ODA等の平和的手段により、国際社会の平和と繁栄に貢献した、戦後65年間の貢献は間違っていなかったと確信した。
ミレニアム開発目標については、昨年「菅コミットメント」として表明し、本年中のMDGs国連首脳会合のフォローアップ会議開催の準備を進めている。アフリカ向けODA倍増、民間投資倍増支援等、TICADⅣの公約を着実に履行し、アフリカ支援を強化する。
環境問題の貢献について、日本の省エネ技術やクリーンエネルギー技術に加え、国際的基準や枠組み作りといったソフト面の貢献も必要。地球温暖化対策や、生物多様性保護などでの日本のイニシアティブは国際的に高く評価。アジアの環境問題について、CO2削減の国際的共通目標など新たな国際的構想を提示したい。
国連を重視し、核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取組みの先頭に立ち、日本の安保理常任理事国入りのために全世界の理解獲得に努力する。
第五の柱:日本の安全保障環境への的確な対応
昨年末の新しい「防衛計画の大綱」の下、専守防衛、非核三原則等の防衛の基本方針を引き続き堅持しながら、我が国自身の努力や同盟国、国際社会との協力を進めることを再確認した。 より効果的な防衛体制を作り、南西地域を含む警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処などの機能を重点的に整備する。
おわりに
私の生まれた山口県の吉田松陰は、時局に臨んで何もしない為政者を厳しく指弾した。「志士の尊ぶところは何であろう。心を高く清らかにそびえさせて、自ら成すことではないか」と松下村塾の塾生に言い残した。私自身、今の時代に生きる政治家として成すべきことを成していく。そのことが正に必要だと考えております。難題多い日本の政治、国際情勢に対してこのような覚悟を持って日本外交を進展させるために、全力を挙げて邁進したい。
質疑応答
松澤事務局長:昨年6月の総理御就任以来の多くの首脳会談を通して、どのような実感、お考えをお持ちでしょうか。
菅総理:私は昨年の1月に財務大臣、6月に総理大臣に就任し、多くの国際会議や首脳会談を経験し、面談を重ねるうちにお互いの気持ちがわかるようになってまいりました。まず会う、できれば何度も会うことが、日本外交にとっても極めて重要と感じております。加えて、多くの発展途上国や新興国は、日本は自分たちが目指すモデルと言い、日本の支援に大変感謝しています。日本は新興国の兄貴分として、日本の活動にもっと誇りを持ってよいのではないか。今後も更にそれらの国々を応援し、その応援が日本の成長にもつながっていく。このような関係は十分に作りうると強く感じました。
松澤事務局長:米中首脳会談が行われたところですが、総理は我が国外交にとって重要な日米関係、日中関係を今後どのように進めていくのか、お話いただきたい。
菅総理:日米関係については、オバマ大統領と3度の首脳会談を行い、コミュニケーションがしっかりできている、将来方向についてもしっかりと話し合いの場ができていると、理解している。中国とは元来良好な関係が続いていたが、昨年の尖閣沖の漁船衝突事件などによって、一時期揺らぎました。政治・経済分野だけではなく、国民的なレベルでの深い人間関係、社会関係を築くことが必要ではないか。韓国とも、かつては難しい問題がありましたが、今日はそれを超えた良好な関係が進展している。日中関係も、国民的なつながりをより深める努力をしながら、経済、政治の関係においても「戦略的互恵関係」をより深めていきたいと、考えています。
![]() 金川千尋FEC会長と菅直人総理内閣総理大臣 |
![]() 各国駐日大使や会員、マスコミで溢れかえる会場 |






